コシヒカリのルーツ「亀の尾」がいま注目される理由 | SUSHI TIMES

コシヒカリのルーツ「亀の尾」がいま注目される理由

日本酒好きで「亀の尾」を知らない人はほとんどいないだろう。酒米(酒造好適米)として使われることが多い米の品種だ。

しかし、実は亀の尾も、日常の食卓にのぼる「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」などと同じ食べるお米(飯用一般米)。白ごはんのままでもおいしいく、またリゾットやパエリア、鮨など、さまざまな米料理に合うと評判で、日本酒以外でも注目を浴び始めている。

コシヒカリがあるのは亀の尾のおかげ

「亀の尾」の誕生は明治26年(1893年)。山形県の篤農家・阿部亀治氏により発見育成された。現在よく知られているブランド品種のルーツで、「ひとめぼれ」も「あきたこまち」も「つや姫」も、亀の尾がなかったら生まれていない。今や世界中の日本食ファンに支持されている「コシヒカリ」も同じだ。

味の良さから大正時代に広く栽培された亀の尾だったが、農薬や化学肥料を使用する現代的な農法に合わず、栽培も難しいため徐々に姿を消していった。

そんな中、この品種に目をつけたのが新潟県長岡市の「久須美酒造」だ。1980年にはすでに幻となっていた亀の尾の種籾を探し出して復活させ、日本酒「亀の翁」を完成させた。これをモチーフに描かれた漫画「夏子の酒」をきっかけに、亀の尾で日本酒を造る酒蔵が増えていった。

このブームとは別に、10年ほど前から亀の尾を無農薬・無肥料の自然栽培で自社生産し、日本酒を造っている蔵元もある。創業1711年、「自然酒」の先駆けとして知られる福島県郡山市の「仁井田本家」。亀の尾を使いはじめたきっかけは、「亀の尾の土着性に惹かれたから」と、18代目蔵元・仁井田穏彦は言う。

伝統的な米と方法で日本酒を造りたいと思っていた仁井田は、福島県で古くから酒に使われていた米が「フクノハナ」「京の華」「亀の尾」の3品種だと知り、その中から、県内の他の酒蔵が大々的に使っていなかった亀の尾に狙いを定めて、米と酒をつくり始めた。

「仁井田本家」で開かれた「亀の尾」の稲刈りイベント

リゾットにも鮨にも合う

復活劇を見せる亀の尾は、日本酒業界だけでなく料理業界からも見直され始めている。日本料理だけでなく、さまざまな料理とも相性がいい。

福島県会津若松市の割烹旅館「会津芦ノ牧温泉 大川荘」の料理人、黒澤俊光は、試験的に鮨のシャリに亀の尾を使ってみたところ「米粒が寿司酢をしっかりと吸い、かつ米粒同士の離れ具合が良い」と太鼓判を押す。時間が経っても米粒がふやけずしっかりとし、程よい粘着があって握りやすいのだと言う。

福島県郡山市のイタリア料理店「インコントラ ヒラヤマ」では、リゾットに亀の尾を使っている。

「亀の尾は出汁を吸いやすく、かつ出汁に負けない米の存在感がある。米に出汁が入るだけでなく、米から出汁に出る旨みも感じられる」と話すのは、オーナーシェフの平山真吾。あるイベントで、スペイン料理のシェフにパエリアのお米として使ってもらった際も好評だったという。

「インコントラ ヒラヤマ」の亀の尾リゾット

「米」を肴に「酒」を飲む

ところで、私は常々、「酒によって米を食べる人が減っているのではないか…」と感じている。酒の席では、ごはんは“シメ”、つまり最後になりがちで、料理と酒でお腹がいっぱいになると米を食べずに終わる、という人は多い。あるいは「太るから」と好んで食べない人もいる。

主食の多様化によって、朝はパン、昼は麺、夜はお酒で、1日に1粒も米を食べない食生活も普通になった。「日本は米の国」とか「おむすびは日本のソウルフード」と言われるが、実際の消費を見ると米はそれほど食べられていない。

旅行サイト「トリップアドバイザー」が2015年に発表した国民一人当たりの米消費量(生米)を見ると、1位はバングラディシュで1日473グラム。日本はなんと50位で、1日119グラム。コンビニおむすびに置き換えると、3個足らずという具合だ。農林水産省の発表によれば、毎年8万トンの米消費が減っている。

そこで、提案したいのが「米を肴に米(酒)を飲む」という楽しみ方だ。考えてみれば、鮨を食べるときに日本酒を飲む人は多い。

2年前に行ったトルコでは、野菜やムール貝にピラフなどを詰めた「ドルマス」やぶどうの葉でピラフを巻いた「サルマス」という米料理を食べながら、ワインやビールを楽しんでいる人たちを見た。当たり前のように米を食べながら酒を飲んでいる。「私たち日本人も米を肴に米を飲むスタイルを楽しもうじゃないか!」と思うのである。

同一品種の米と酒(米)の両方を味わうと、「日本酒は米からできている」ということを改めて強烈に意識させられる。「この味わいの米」から「この味わいの日本酒」が生まれるという醸造の不思議を体験することで、米と日本酒の味わい方が少し変わるかもしれない。

横浜市にある立ち飲み処「お酒とお米 おちょこ」では、店主の阿川美和子がおすすめの米を土鍋で炊き上げ、おむすびを提供している。米の品種は日替わりだが、亀の尾の日もある。亀の尾を使った日本酒を飲みながら、亀の尾おむすびを食べる。まずはこんなペアリングから楽しんでみてはいかがだろうか?

出典:Forbes Japan