SUSHI TIMES

スシロー/水留社長が語る「強さの秘密」(後編・未開拓市場を拓く新業態)


回転寿司業界No.1の売上を誇る「スシロー」の強さについて、前編では、うまい寿司を出したいスシローのDNAや投資ファンドがもつ機能などを明らかにした。中編では、寿司職人であり現場を知り尽くした豊﨑賢一前社長から社長交代した後、どうスシローをマネジメントしたのか、当時を振り返った。後編では、9000億円ともいわれる未開拓の寿司市場の開拓を目指した新業態開発や元気寿司との経営統合のメリットについて語ってもらった。


■9000億円の未開拓の寿司市場を新業態で開拓する


――成長戦略として、新業態を開発する狙いは何ですか。


水留 新業態を開発する狙いは、いまのスシローの客層や利用シーンを拡大することです。今は、郊外ロードサイドの店舗が主流で、車がないと来店できないこともある。また、夜にお酒をゆっくり楽しみながら寿司を食べるという利用シーンもあってもいいと思っている。
いま、統計的に言うと、寿司のマーケットというのは、1兆5000億円くらいと言われています。そのうち100円の回転寿司の市場規模は4500億円。グルメ系の回転寿司の市場規模が1500億円で、回転寿司の市場規模は6000億円と言われている。残りの9000億円という市場が、回転寿司ではないところにあるんですよ。もちろん回転寿司が大きくなることで、9000億円から回転寿司にシフトしていく部分もありますし、一方で回転寿司では手が届かない部分もあって、それをどういう形で取りに行くのかというのが新業態の中で考えなきゃいけないことです。


――9000億円というのは大きなマーケットですね。


水留 回転寿司の隣に大きなマーケットがあるんですよ。このマーケットは、銀座の寿司屋さんのような、客単価2万円、3万円の世界ではないんですよ。そこはそんなに行く人がいないので、マーケットはあまりない。
マーケットはどこにあるかというと、住宅地だとか、駅前だとかに普通にある、お父さん、お母さんがやっているようなお寿司屋さんですね。職人さんを1人か2人くらい使っているような。どちらかというと、後継者がいないとかいろいろあって廃業している。いま、お寿司が食べたくても、食べる場所がないという人が出てきているんですね。


――豊﨑前社長が開発した新業態「ツマミグイ」(2015年1月出店、2016年6月までに全店閉店)を閉店した理由はなんですか。


水留 飲食というのは、百発百中の世界ではないんですね。なので、「ツマミグイ」を閉店したのは、前社長を否定したわけではありません。うまくいかないものは辞めましょうというそれだけの話です。新業態はいくつもアイデアを出していって、その中で生き残るものを残していけばいい。
「ツマミグイ」は利益も出ていたが、数百店という出店には向かない業態だった。1号店の中目黒店は意外と場所として広いんですよ。あの場所で、たまたま物件があった。ああいう物件って世の中に、なかなかない。そうすると、開発ができるかというと、難しい。ある程度、駅前ならこういう物件ってあるよねという場所で、成立するような業態を開発していかないと店舗数は増えない。


――水留社長就任後に開発した新業態「七海の幸」(2015年11月開店、2016年6月閉店)を閉店した理由はなんですか。


水留 「七海の幸」はツマミグイを閉店した後の中目黒の物件を何とかしなきゃいけなかったんで、別の実験もしようかということで、看板を変えてやってみた。「七海の幸」は利益を出すというよりも、どちらかというと、どういうメニューとか、どういう寿司としてのレベル感というか、グレードが、どういう風に反応するのかをちょっと実験した。「七海の幸」はいい食材を使ったんですよ。それで、どれくらい客単価が取れて、どういうお客さんが付いていくかというのは、それなりに分かったんで、物件はお返した。


――新業態のイメージとして固まっているものはありますか。


水留 ありますよ。もちろん、いろんなものを開発していこうと思っていますからね。その一つとして、フードコート的なところに、出せるようなフォーマットを作るというのをいま現場は、やっている。


■うまい寿司を出したい思いは「元気寿司」と同じ、海外出店で協力も


――元気寿司、神明との経営統合でいま考えていることはなんですか。


水留 基本的に経営統合はスシローと元気寿司の2社なんですよ。神明さんは、株主としてはいらっしゃったとしても、業務上に何か入ってくるわけではない。そこは元気寿司さんともいろんな議論をしている。もちろん、株主として、神明さんが同意されるかという問題はありますが、基本的なオペレーションや戦略は2社がちゃんと作っていく。当然、お互いの業態の良さをどう生かしていくか議論もしてますし、どうしたら統合会社として価値が高まるのか、いま考えています。


――元気寿司とスシローの相性はどうですか。


水留 我々が元気寿司さん、いいよねと思っているのは、結構、うちに近い価値観がある。例えば、寿司の味にこだわりたいとか、極論すると、利益よりもいいものを出したいという発想が、非常に強い会社さんなんで、価値観の軋轢といったものは出ないと思っています。


――スシローと元気寿司の統合で生まれるメリットは。


水留 元気寿司とは1店舗あたりの売上が結構、違います。フォーマットとしては同じかもしれませんが。やっぱり収益性も結構、違うので、ある意味スシローのいいところを活用してもらって、元気寿司の店舗の収益性が高まるというのが、一番、理想的にあるかなと思ってます。スシローとしては、元気寿司が展開する回転しないフルオーダー型のお店が、どこに効率性を生んでいるのか、ひとつ勉強になると思っている。元気寿司は、海外ではスシローよりも多くの国に進出しているので、そこの経験値、ノウハウは我々にとっても参考になると思ってます。


――スシローグローバルホールディングスを設立した狙いは。


水留 スシローグローバルホールディングス(SGH)を設立した狙いは、「あきんどスシロー」という看板をしょって、日本でやっているオペレーティングビジネス以外のビジネスをやるためです。
例えば、海外、韓国のスシローはSGH傘下にあり、この前、発表した台湾のスシローもSGHにぶら下がっていく。それ以外の国のスシローもぶら下がるような形になる。そのほか、元気寿司さんみたいな形で、スシロー以外のブランドもそこに取り込んでいけるような、先に向けた組織構造を作ろうよというのが一番、大きな目的です。他社からすると、いきなり全部、看板が「スシロー」になりますじゃなくて、ホールディングスの下で、株主はSGHかもしれないけど、自分のオペレーションがあるという方が入ってきやすい。まさに、次のステップに向けた体制づくりです。


――回転寿司は世界に通用しますか。


水留 お寿司は非常に可能性のあるテーマですし、日本が本当に世界に広げていける、一つの大きな商材、カードだと思うので、それをしっかりと広げていきたい。まずは、韓国と台湾に出店しますが、そこで止まっている気は全然ないので、そこは加速してやっていきたい。韓国と台湾をやりながら、同時進行で新規進出国に出店する。実際、元気寿司さんはフランチャイズとして、海外にお店があるので、現地でどういう状況かというのは当然、分かる。元気寿司さんの情報も活用しながらやっていきたい。
 


■水留浩一(みずとめ こういち)氏の略歴
 
1968年1月:生まれ(神奈川出身)
1991年3月:東京大学理学部卒業
1991年4月:電通入社
1996年2月:アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)入社
2000年4月:ローランド・ベルガー(日本法人)入社
2005年1月:ローランド・ベルガー(日本法人)代表取締役
2009年10月:企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)常務取締役
2010年1月:日本航空管財人代理として更生計画の策定・実行に着手
2010年12月:日本航空取締役副社長
2012年7月:ワールド常務執行役員
2013年6月:ワールド取締役専務執行役員
2015年1月:あきんどスシロー顧問
2015年2月:あきんどスシロー代表取締役社長(現任)
2015年3月:スシローグローバルホールディングス代表取締役社長CEO(現任)
2015年9月 :SUSHIRO KOREA,INC.理事(現任)
2015年10月 :スシロークリエイティブダイニング代表取締役(現任)
 
座右の銘:人事を尽くして天命を待つ

 
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出典:流通ニュース

 

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