SUSHI TIMES

情熱大陸vol.1128 鮨なんば 難波英史[ 鮨職人 ] 鮨の探求がとまらない 予約9か月待ちのヒミツ 【前編】SUSHI TIMES ORIGINALS

コロナ禍にもかかわらず、驚異の9か月待ち鮨店。

東京・阿佐ヶ谷で「超コスパの良い店」として名を馳せていたが、

2年前の春、日比谷に進出。3万円超の強気の価格設定で勝負に出たのは、

鮨職人・難波英史。自らの仕事を一から見つめ直し、

全てのネタは温度管理に徹底的にこだわった。

シャリもネタに合わせて温度を変えていき、最高の状態に。

「鮨には魔力がある」と語る、“すしオタク”である、難波。

有名店での修業経験がモノを言う鮨職人の世界にあって、

“町のすし屋”を転々と…。知識だけは負けまいと、

あらゆる資料をかき集め、一人試行錯誤を繰り返した。

孤独とコンプレックスを抱えながらも、

あくなき向上心で至高の鮨を目指す。

——その原点は、意外にも十数年前に客から言われた“ある一言”だった。その生き様とは

 

以上TBSサイトより

 

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以下放送内容の書き起こし

 

会食を終えたお客は次の予約を取ろうとして面食らってしまった。

なんと席を取れるのは来年。しかも9ヶ月先だった。

「9ヶ月待っても来たい。本当は待たずに来たい」と苦笑する客。

 

東京、日比谷。多くの飲食店が不審に喘ぐ中、

難波英史は淡々と自分の鮨を握り続けている。

程よく熟成させた最高級の本マグロは口に含めばとろける味わい。

心憎い一仕事がネタの魅力を一段と引き立てている。

呼子のイカは透けるように薄くおろし1ミリ幅に包丁を入れる。

これを4層に重ねて1貫分。

複雑な舌触りとネットリした甘みは筆舌に尽くしがたい。

 

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一方で思わぬ変化球も。

名付けて、難波特製オムちらし。

炙り穴子を乗せたチラシを半熟玉子で包んでいた。

大胆な創意工夫も店の持ち味。

「他のお店も大体穴子と玉子が出て終わりなんですが、

何か変わった終わりの方がいいんじゃないかなと思って」と難波。

大切にしてきたのは「探求」の2文字。

お客の笑顔が何よりの励みだろう。

 

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難波にはいわゆる名店での修行経験がない。

町場の店でひたすら腕を磨いた。

32歳で独立するとたちまち評判をとる。

だが、口コミサイトのコメントにショックを受けた。

『一流のオーラがない』というコメントに

『一流のオーラ』って何だろうって考えちゃいましたね。」

己を飾るキャリアがない男は独自の哲学に行き着いた。

良い寿司職人の条件とは?と聞くと、

「大きく考えると思いやりがあるとか。

家庭とか、仏のようになれるのが良い寿司職人だと思います」

と答える難波。

優しい鮨が、待っている。

 

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鮨職人難波英文は、この朝も魚河岸にいた。

目を止めたのはボタンエビ。

高級店でエビといったら車海老だが

このところ敬遠している。

問題はあくまでもネタの良し悪し。

これと思えば値段は二の次らしい。

大間の本マグロ。

「すごく柔らかい。脂もさらさらしている。脂も質ですよね。」

納得いく内容の仕入れができて安堵する難波。

 

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東京ミッドタウン日比谷の3階下

目立たない入り口を潜ると小さな別世界が広がる。

無駄のない空間にはカウンター8席と個室一つ。

昼・夜の営業を難波と五人の職人たちが支えていた。

寿司の要となるシャリにはまろやかな赤酢を使う。

コメの甘みを活かすため砂糖は入れない。

難波が使うのは木の飯台ではなくステンレスのボウル。

「粘りが出ちゃうんで手早くですね。

木の飯台だと酢を吸っちゃうのでシャリがばらつく。

ボウルだとステンレスなので酢を吸わないし、

シャリだけに酢が入ってくれる。

これ(ステンレスボウル使う方が使う方が

断然シャリも綺麗に切れるんで。」

木とかだとかっこいいしすごいもの作ってるんだろうな、という

『オーラ感』が出るけどこれで作っても

美味しいものは美味しいですから」難波はそう語る。

 

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魚の熟成にも工夫があった。

この日提供する知床のブリは10日間寝かせたもの。

店の味を決めるのは難波だが魚の扱いは若手に任せることも。

ブリは塩を使わずにペーパーだけで脱水。

ペーパーだけでも5種類を使い分けてきた。

「自分で仮説を立てて出来上がった時に

美味しくなったらそれは嬉しい。毎日が楽しいんで」

美味い寿司は1人では作れない。

職人たちの想いに応える10日目のブリ。

 

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店にはお客を驚かせる演出も。

「今日のメニューです」

毎日のお品書きには握りそれぞれに温度が記されている。

左がシャリで、右がネタ。

味も香りも異なるねたを最高の状態で楽しめるよう

一貫一貫徹に厳密な温度管理を施しているのだ。

例えばハマグリは身の柔らかさを保つため40度で4分煮詰める。

火からおろし、18度まで下がるのを待つ。

これを37度に調整したシャリと合わせ素早くお客に出す。

煮ハマグリは、たった今海から救げてきたような香気をまとっていた。

 

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かたやマグロのトロは24度。

高めの温度設定は上質な油を下の上ですぐ溶かす狙いだという。

合わせるシャリも40度。

マグロのためにわざわざ別にたいていた

満足は舌の上だけにあるわけではない。

 

かけられた手間暇を想像するお客は

申し合わせたようにこんな表情を浮かべる事になる。

 

無論遊び心も覗いていた。

炙りたての海苔にいくらとシャリ。

手巻きで頬張ればなんだか幸せな気分になるというものだ。

 

続きは後編

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本記事は2020年11月08日(日) 放送の「情熱大陸」

SUSHITIMES編集部が書き起こししたものです。