「お前に鮨は握らせない!」 父の反対を押し切り鮨職人になった娘の覚悟(前編) | SUSHI TIMES

「お前に鮨は握らせない!」 父の反対を押し切り鮨職人になった娘の覚悟(前編)

戦後の目黒で70年もの間、住民に愛されていた大衆鮨屋が2019年4月30日、平成最後の日にその歴史に幕を閉じた。
最後の日は閉店を惜しみ、涙しながら鮨を食べる客もいた。後継者に恵まれない街場の鮨屋がまた1店、日本から姿を消した瞬間であった。

が、この店、ある人物に買い戻され今年10月に再び開店するという。
しかも、買い戻したのは鮨を握った事も魚を捌いた事もない、職人の娘だった。

大衆鮨店「だるま鮨」と昭和の復興

 

初代だるま鮨店主、村上トシさんは昭和初期に福島から上京。神田の花街の鮨屋で働き、芸者衆からモテる色男だった。妻の房子さんは根っからの商売好き。1日でも早く商いを覚えようと11才の時、小学校卒業を待たずに単身で栃木から状況。五反田で親戚が経営する「だるま食堂」で丁稚奉公をはじめた。ドラマ「おしん」の世界さながらである。

 

お見合いで出会った房子さんにトシさんが惚れ込み、二人は結婚する。時代は戦争真っ只中。鮨職人のトシさんは海軍の調理人として戦地へ。東京中から米が無くなっていたため、房子さんは毎日満員電車で田舎に出向いて小豆を仕入れ、作った和菓子を東京で売って生活の足しにした。その後、戦地から九死に一生を得て帰国したトシさん。米が自由に手に入るようになると、二人は鮨屋を開業するべく莫大な借金をして目黒駅前に土地を買い、4階建てのビルを建て「だるま鮨」を開業。この建物は目黒の歴史上初の個人ビルとなる。

何もないところから立ち上がり、必死で働く原動力。

 

多くの日本人が「生き抜く」ことを目標にしていた戦後の時代。物質的には恵まれないものの、復興を目指す街には活気があった。

戦後の日本には現在のような高級鮨店はなく、ほとんどの鮨屋が大衆向けだった。鮨は生活とともにある、庶民のためのものだった。お祝い、給料日、弔事、何かあれば人が集まって鮨を囲む。結婚式や葬式も家で行うので、鮨屋には大量の出前注文が引っ切り無しだ。だるま鮨も猫の手も借りたいほど繁盛した。足りない人手は房子さんが街でスカウトしてくることもあった。中でも群馬から上京し水汲み場で房子さんに声をかけられた姉妹はその後60年以上、生涯を通じてだるま鮨を支えた。店にはいつも地方から上京してきた4,5名の若手職人が住み込みで働いた。一つの店を人々が団結して盛り上げる、そんな時代だった。

生涯モテまくる夫と努力の妻

トシさんは鮨職人らしい、天性のスター性を備えていた。店にはトシさん目当ての女性客が絶えず、妻気取りで彼の着物を縫ってくるファンまで現れるほどだった。一方の妻・房子さんは努力の人。店を盛り上げるための施策を次から次へと考えた。中でも、彼女が銀杏の木から探し研究を重ねて作り上げた茶碗蒸しは店の名物として愛された。寝る間を惜しんで働き、幼子を育て、従業員を育てて店を盛り上げた。誰もが認める商人の房子が亡くなった時、その戒名に「商」の字を授かったという。運命で結ばれた鮨屋の夫婦はそれぞれの得意分野を活かし、また絶妙なバランスで店を守ったのである。

 

 

昭和初期の鮨店(イメージ)

画像引用元:https://entert.jyuusya-yoshiko.com/susi-kie/

目黒さんま祭りを始めた男・2代目利雄

 

トシさんの引退後は、息子の利雄さんと妹の幸子さん、その家族たちが全員総出で店を支えた。2代目の利雄さんはあの目黒の「さんま祭り」創設者の一人で、目黒の活性化にも心血を注いだ人物だ。

右下の写真が利雄さん

 

しかし平成も後半になる頃、高齢となった彼らが店を続けるには限界がきていた。若手の後継者も見つからず、平成31年4月30日、だるま鮨は平成とともに幕を閉じる事となった。利雄さんは最後まで続けたいと考えていたが、10年前に職人としての意見相違から店を離れた三代目の息子は、目黒に帰らず沖縄に店を構える選択をした。片腕だった妻にがんが見つかり、義弟がくも膜下出血で倒れ、本人もバイクで転倒した右肩不随の身体となり、だましだまし続けていたが、いずれは閉店を余儀なくされるという覚悟もしていた。

「長年のご愛顧に感謝します。断腸の思いで辞めさせて頂きます」という貼り紙が店の前に貼られた。利雄さんの悲痛な思い、感謝の気持ちだった。

閉店を決めてからの日々は怒涛のようだった。だるま鮨閉店を惜しんで遠方から駆けつけ、利雄の最後の鮨を涙しながら食べる常連客もいた。

利雄さんの長女・ちづえさんはその光景を見て思った。

「こんなに人々に愛された店を復活させることはできないのか」
閉店まであと4ヶ月。店は既に売りに出され、買い手も決まっていた。

 

後編に続く

 

だるま鮨

住所:東京都品川区上大崎2-15-19 MG目黒駅前ビル 2F
JR山手線【目黒駅】東口 徒歩1分
東急目黒線、都営地下鉄三田線、東京メトロ南北線【目黒駅】徒歩3分
電話:03-3473-4715
営業時間:11:30~14:30/17:00~23:00 ※昼は今後開始する予定
定休日:不定休
お店のホームページ

 

だるま鮨のクラウドファンディング開催中!(2019年10月31日まで)