SUSHI TIMES

鮨で世界を盛り上げたい!バンコク「鮨 みさき」オーナー インタビュー(後編)

今、バンコクで最も予約が取れない店として知られる「鮨 みさき」。

オーナーの見崎昌宏(みさき まさひろ)氏に海外でのビジネス展開のコツについて伺った。

後編は、海外での開業の心得について。

=========================
見崎氏の下積み時代〜開業までの経緯は前編に掲載
=========================

さて見崎氏は今の店をどのような考えで設計したのだろうか。

ベストな規模・客単価・仕入れ

「店を開く時、大規模店はやめようと思ったんです。インドネシアで手伝った店は50席規模の店でしたが、ストライキで従業員全員が来ないなんてことがあったんです。そういう意味で大きい店はリスキーだなと。自分で経営するにあたっては一人で回せる規模の店にしようと決めました。」

「それから客単価。『鮨みさき』はコース一択で4000バーツ(約1万2千円)です。日本だとお鮨に3万円使える人は多くないですから、店の方がヨイショするわけですよ。こういうお客さんは他の店も色々回っていて『あっちはああだった、こっちはこうだった』とおっしゃいます。だから店側も特別なことをしなきゃいけなくなっちゃうのかなと思います。銀座で働いていたときなんか、金髪の若い男性のお客さんが食べに来た時、他のお客さんから『なんであんな子を店に入れるんだ』とクレームを言われたこともありました。日本は病んでるな、と思ったんですよね。僕はお客さんに媚びるのが嫌だったので、お客さん同士が平等になる客単価はどれくらいかなと考えて一万二千円に設定しました。このくらいの単価の店なら、威張る人もいない。一か月に一回の、ご馳走の日だと思ってきてくれるお客さんが多い。そのくらいの金額設定にしてあるんですよね。」

「あとは、当然のことながら、鮨屋はネタが命です。うちの店は全てのネタを日本から空輸していますが、その中でもコストを下げる工夫や、安くていいものを手に入れるための情報収集を惜しみません。そのあたりの企業努力が店の価値になります。だから仲買さんと、綿密にやり取りしてますし、度々日本に帰っては仲買さんと会って、豊洲を歩いて、挨拶と情報交換をしています。」

任せなければ、人は伸びない

見崎氏はバンコク市内に出店した分店を職人歴の浅い若手に任せている。

「少し前に堀江貴文さんが『寿司職人に10年の修行なんて必要ない』というようなことを言われましたけど、僕はその通りだと思います。日本の料理業界には『長く働かせ、技術は教えない』という慣習がありますが、チャンスを与えなければ人は伸びません。逆にチャンスさえ与えれば、寿司職人が一人前になるのに10年も必要ない。集中してポイントを学べば鮨は1年で握れるようになると僕は思います。だから若手が挑戦できる環境を作ってあげたい。私はバンコクで、日本でくすぶっている板前さんが活躍できる舞台を用意してあげたいと思っています。その人に合った舞台や役割を見極めてあげるのも上に立つ人間の役割です。その子が失敗した時の尻拭いも含めて。」

さらに2020年にはバンコク市内に4店舗目を出店する予定で、こちらを任せられる若手の職人も探しているという。

 

海外で鮨職人として成功するには

「まず鮨職人に必要なのは、カウンター越しに鮨を売るためのコミュニケーション能力でしょう。いくら腕が良くても、売れなければ意味がないですからね。僕はコミュニケーション能力というのは『お客様目線で対応できる能力』の事だと思っています。例えばいくらオススメのネタがあっても、お客様が苦手なものだったら押し付けません。その方のお好きなものを聞き出す方が重要。それから、緊張しがちな日本の鮨屋の雰囲気を楽しく食事してもらえるように演出するのも腕の見せ所です。楽しんでもらった方が絶対美味しいですもん。まぁ、これはもう僕の経営理念ですよね。」

「それと、海外で必要なのは語学と知識でしょう。海外でのコミュニケーションで大事なのは『その国の文化を理解したうえで、相手を尊敬しつつ話す』ということだと思います。」

見崎氏が考える「自身の強み」

「僕の強みは二つあります、まず、修行時代に苦労した経験です。みんなが寝てる時間に練習して、誰も見ていないところで手間かけて。そういった、日本では当たり前の「努力」を、海外に来た途端と怠けてやらなくなってしまう人は多いんですよ。現地の人間に任せた結果、そういう努力を割愛しても良いことはありません。自分で実践して見せていくことが重要です。

あともう一つ僕の強みは、お客さんが求めているものを提供する力、つまり「読み取る力」だと思うんです。僕自身はこだわりがそんなにないので(笑)「こだわりがないのがこだわり」というか。だからお客様が求めているものをとことん考えて提供します。お客様がほしいものをお出ししてお金をいただいてる、という感覚を無くしてはいけないと思います。」

お客さんに楽しんでもらうためのパフォーマンスも惜しまない

海外を目指す読者の皆さんへ

「海外に住んでいると、やはり日本は特別な国だと実感します。全てにおいてレベルが高い。そして皆さんは日本に生まれたっていうだけで幸運な事だと思います。環境に恵まれています。だからこそ日本をもっと盛り上げて欲しい。海外にはまだまだチャンスはたくさんあります。がんばってほしいなと、思っています。

今現在の僕はそこそこ「成功」だと思ってますけど、僕のやり方が全てではないと思います。この先も成功しているかはわからないですし(笑)」

そう語る見崎氏はすでに次の目標を見据えているという。

「タイで5店舗出して軌道にのせたら、僕は別の国に活動拠点を変えようと思っています。ヨーロッパが良いかな。自分の店を広げて軌道に乗せて、そこをどんどん人に任せて次の世代の子達の活躍の場を広げていきたいのです」

文:SUSHITIMES編集部

==============

<編集後記>

「タイで成功した鮨職人」見崎氏の展望は想像をはるかに超えていた。
すでに世界を視野に入れていた見崎氏。その哲学と行動力にインタビューしながらも圧倒されてしまった。
才能溢れる鮨職人であり、有言実行のビジネスマンでありながらも皆から慕われるのはやはりその温かいキャラクターに理由があるのだろう。「鮨を通じて世界を盛り上げ、その文化を次の世代に繋いでいく」。彼の大きな夢の実現はそう遠くない未来になりそうだ。

<画像出典>
フォートラベル
寿司浪漫
バンめし
Cotton’s Diary