【鮨 さいとう】齋藤孝司氏インタビュー「鮨屋の範疇を超える仕事はできません」 | SUSHI TIMES

【鮨 さいとう】齋藤孝司氏インタビュー「鮨屋の範疇を超える仕事はできません」

謙虚さと自信。双方が、等しい力で備わっている。この類まれなバランスはどこからきているのだろう?

「高校時代、魚屋でアルバイトしていて、一度主人が鮨屋に連れて行ってくれたことがあったんです。その時初めてカウンターに座らせてもらい、目の前の主人と話ながら握る店の大将を見てなんだか鮨職人って、かっこいいなと思ったんです。きっかけは、実はそんなもんで」

ミシュランや食べログといった本やサイトでの評価の高さ、とそれ故の「予約の取れない店」と言う現場で名を馳せてしまった感もある「鮨 さいとう」。その一方で行ったことのある人が誰しも口にする、敷居の高さを感じさせない店と言う感想は、店主齋藤孝司さんの、この気負いのない姿勢から来ている事は間違いない。とは言え、その仕事を拝見していると、手を抜くことが嫌いで、また一切できない性格であることがよくわかる。

千葉県の高校を卒業直前、よき進路が見つからず迷っていた斎藤さん。担任の先生の「鮨屋もいいぞ」のアドバイスで鮨職人をかっこよく感じた自分を思い出し、どうせ働くなら銀座の寿司屋で、と就職情報誌の求人を見て応募。採用されて鮨職人としての一歩を踏み出す。

その店では6年間働いた。

「きつくて辛くて逃げ出したこともありました。でもありがたいことに先輩が連れ戻しに来てくれました。今だからわかることですが、先輩も俺がいなくなると1番下っ端に戻っちゃう状況だったんですよ。それであんなに必死だったんだなって(笑)」
大きな出会いもあった同年代なのに、すべての動きに無駄がなくしかもきれい。掃除や片付けでさえも完璧にこなす。斉藤さんは彼を見てすべての仕事には意味があることを知ることになる。

「1年上の先輩でした」

現在の「鮨 かねさか 銀座本店」の主人、金坂真次さんのことである。「かねさか」の独立閉店とともに一緒に修行先を離れ、金坂さんと並んで新店のつけ台に立つ。その後、分店として「鮨 かねさか 赤坂店」を任され、さらにその地で独立して「鮨 さいとう」の看板を掲げる2014年に現在の地に移転、今に至る。

「金坂は師匠と言われるのは嫌がるので言わないですけど(笑)、恩人であり、同志であり、そして兄貴ですね」

そんな齋藤さんが握る鮨は、世間の評価がどうであれ、バランスが取れた王道を行く者ではなく、齋藤さんもそんなつもりでは決してない。

シャリの酢は塩と赤酢だけで、マグロに焦点を合わせているが、他のネタにも充分に寄り添う個性の立ちすぎていない塩梅。しかし、そのシャリをいわゆる人肌より、かなり温かい温度でネタと合わせる。口に入れるとはっきり感じる。温度が高いとネタの魚の香りがふわっと立ち、気持ちが華やぐ。食べて「元気が出る」と言われると、とても嬉しく感じると言う齋藤さんらしいシャリのこだわりだ。
握りに扱うネタの種類は少ない。特に貝類は子柱、生のとり貝、赤貝くらい。全く出てこないことも珍しくない。貝の食感は固いので、シャリとは合わせにくいと言うのがその理由。貝はもっぱらつまみで使う。

そのつまみも基本はシンプルに火を通した魚介。鮨屋のつまみは料理屋のものとは違うと考えている。鮨屋であって鮨料理屋では無いので、鮨以上にも鮨以下にもなってはいけないと言う思いはあります」

さて、齋藤さんに、今の悩みは?と聞くと、「予約の取れない店」になっている事で弟子になかなか自分の思いを伝え切れないことと言う。仕事を人に任せることが苦手でキャパが増やせない。それでも今は2つ目のカウンターを作り、二番手を立たせることができるようになった。だが、もっと皆がすべての仕事に意味があることを腹の底から感じるようになってほしいと思っている。

「お客様の前に立つ鮨職人の仕事はきれいでなければいけないと思いますし、きれいな仕事が、飽きない美味しさにつながると思います」

長年の常連さんの1人からは「ずっと変わらないから通っている。味が落ちたらもう来てないよ」と言われ、自信につながったと言う。

この文章書いている私も、8年前の春に初めて伺い、一貫目の握りを食べた瞬間に再訪を決意し、それから毎月、気がつくと100回を超えてなお通い続けている。齋藤さんの鮨にはいつも謙虚なる自信を感じる。きれいな仕事がつくる、飽きない美味しさは、その気持ちその思いが作っているなのだと思う。

鮨さいとう
東京都港区六本木1-4-5アークヒルズサウスタワー1階
03-3589-4412
営業時間12時から14時半18時から23時
休日:日曜祝日・12月30日から1月5日
禁煙
カウンター8席(別室カウンター8席)
東京メトロ六本木1丁目駅より1分
昼のお任せはにぎり15一貫で10,800円
夜はつまみと握り12〜13貫で22,680円

さいとう・たかし

1972年生まれ。2005年に鮨かねさか赤坂店を任され独立。店名を「鮨さいとう」に改め2014年に現在の地に移転。齋藤さんの気さくさからか、静謐な空間にいながら鮨屋独特の緊張感はあまりない。真面目な鮨雑談も何気ない質問にもきちんと返してくれる。

記事出典:dancyu 2017年1月号 P102-103
画像出典:ameblo