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【東京・両国】江戸時代の寿司を再現!穴子やマグロが通常の2倍以上も大きい“元祖”江戸前寿司がすごかった! 

外国人にも大人気の握り寿司。江戸時代に誕生した当時は、今とはかなり違う食べ物だったって知っていますか?京や大阪ではなく江戸だから流行ったワケ、江戸前と江戸流の違いとは?当時の寿司を再現する両国「政五ずし」で、江戸に詳しすぎるタレント、“お江戸ルほーりー”こと堀口茉純さんが実食レポートします♪

江戸っ子が愛した屋台グルメはココから始まった!両国「政五ずし」

「政五ずし」があるのは、2016年11月にオープンした「-両国- 江戸NOREN」内。1929年に建てられた両国駅の旧駅舎内に、12軒の和食店が集結した新名所です。

両国といえば相撲やちゃんこのイメージですが、実は握り寿司発祥の地でもあります。「政五ずし」は、江戸時代のお寿司を再現して出すことで知られるお店。

入口にはお店の歴史が書かれたボードも。

一説によれば、握り寿司の先駆けは両国にあった「華屋与兵衛(はなやよへい)」。そして、それを再現したのが看板メニュー「与兵衛ずし」なんです。

1968年創業の「政五ずし」は、夫婦で営むアットホームな寿司店。

寿司の起源は、古代からある保存食の「熟れずし(なれずし)」。塩と米飯で発酵させた、いわば魚の漬物です。

日持ちして遠くまで運べたため、献上品や贈答品として発達したんだそう。

魚の漬物だったことの名残りで、今でも寿司屋の調理場は“漬け場”と呼ばれます。

清潔で和モダンな店内は、テーブル席中心の全21席。「本日のおすすめ」もあり、一貫ずつの注文も可能です。

安価で立ち食いできる握り寿司が生まれたのは、江戸時代後期の文化文政期(1804年~1830年)。出稼ぎで江戸に来ていた独身男性の間で、仕事の合間にサッと食べられるファストフードとして広がったそう。

「それまでハレの日に食べる保存食だったことを考えれば、気軽に食べられるようになったのは革命的」と堀口さん。今では高級食のイメージが強い寿司にも、意外な歴史があったんですね。

今の寿司よりも超ビッグ!“江戸流”の寿司を堪能

握り寿司発祥の店とされる「華屋与兵衛」の寿司を再現する「政五ずし」で、早速江戸時代の味をチェック!

奥には5席とこじんまりしたカウンター席があり、ずらりと並ぶトロ、イクラ、穴子などの豊富なネタが揃っています。

握り寿司が最初に登場する文献は、文政12年(1829年)の「俳風 柳多留」。「妖術と いふ身で握る 鮓の飯」という川柳が収録されています。

「手早く握る様子が妖術のように見えたということでしょう。おもしろいですね」と堀口さん。カウンター席なら、職人の華麗な手さばきを目の前で見ることができます。

江戸っ子たちも、テンポよく握る職人技(妖術!?)に感心したのでしょうね。 当時の寿司は、シャリから違います。

江戸時代から続く伝統的な製法で作られた赤酢と塩のみを使い、砂糖は使わないのがこだわり。

右が江戸前寿司を再現した「与兵衛ずし」に使う赤酢で握ったシャリ、左がその他の寿司に使う白酢で握ったシャリ。

熟成させた酒粕で作られた飴色の酢が、まろやかで旨みの強い酢飯に仕上げます。砂糖が入っていない分すっきりした味わいで、魚の味が活きると評判です。

ネタも違います。基本的に同店の寿司ネタは、酢で〆る、醤油に漬ける、火を通すなどの仕込みがされているんです。

江戸の前の海で獲れた魚介を“江戸前”といいますが、大事なのは調理法が“江戸流”であること。つまり、仕込みです。冷蔵庫などない当時、傷みやすい刺身をそのまま使うことはなかったんですね。

おいしさと安心を保つその手間こそが、粋でグルメな江戸の流儀。そのため味がしっかりしていて、しょうゆをつけずに食べられるものも多いんですよ。

人気メニューの「与兵衛ずし」(3,000円、お椀とモナカ付き)では、穴子とマグロの漬けが当時に近いビッグサイズで楽しめます。1貫50グラムとシャリも多めで、とても一口では食べられません!

並べれば一目瞭然!穴子(左)は通常サイズの春子(かすご)の倍ほどあります。

この大ぶりな寿司をおやつ感覚で食べていたなんて、江戸の男たちは大食漢ぞろいだったんですね。

たっぷりのシャリと折り畳まれた穴子は、箸で持ち上げるのも一苦労!

シャリには芝海老のすり身を砂糖で味付けした“おぼろ”が入っていて、砂糖不使用のさっぱりしたシャリとの相性もバッチリ。

与兵衛が考案して大好評だったというだけあって、この“おぼろ”の風味はクセになる味わいです。特製の「与兵衛玉子焼き」にも入っていて、こちらも美味♡

「小腹与兵衛ずし5貫」(2,000円)なら、小食の女性でも食べ切れるはず♪

シャリもネタもすごいボリューム。箸を横から差し入れるとつかみやすいそう。食べ応えがあるのは言うまでもありません!

ちなみに、全種類“江戸サイズ”を再現していないのは、食べ切れない人が多いため。サイズ感も楽しみつついろんな味を食べてほしいと、人気の2種類だけ再現しているんだそう。

堀口さんによると、「今でこそ人気の高いマグロですが、昔は脂身が多い低級の魚として嫌われていました」と、マグロも江戸時代と今ではイメージが全く違っていたよう。

イメージが変わったきっかけは、天保3年(1832年)の豊漁時。日持ちさせるために漬けにしてタダ同然の値段で売り出したところ、案外おいしいと評判になり、定番メニューになったんだそう。

もともと庶民の食べ物だった握り寿司。食べる順番にも食べ方にも、堅苦しい決まりはありません。手で食べても、箸で食べてもOK。

ひっくり返すようにしてネタをちょんとつければ、しょうゆのつけ過ぎを防げます。 丁寧な仕事がなされた粋な握りを、じっくりと味わって。

それにしても、庶民の食べ物だった握り寿司が、なぜ高級品になったのでしょうか。堀口さんによれば、きっかけは本所安宅にあった店、「松鮨」でした。

当時「松鮨」の近くに、十一代将軍徳川家斉の側室・お美代の方の養父として権力を誇った中野碩翁の別宅があり、人々はこぞって人気グルメの握り寿司を「松鮨」で購入して献上。それがいつのまにかブランド化し、驚くほどの高値が付くようになったんだそう。

「与兵衛ずし」の由来となった華屋与兵衛の店は、昭和初期まで本所の回向院の近くにあったそう。同店から5分ほど歩き、京葉道路を渡ったところにある両国幼稚園の向かいまで行けば、「与兵衛鮨発祥の地」の説明書きを見ることもできますよ。

発祥の地でいただく、丁寧な仕事が施された“江戸流”の握り寿司。こんなにおいしい料理を気軽に食べていた江戸時代の人々が、うらやましくなるかも。

政五ずし

住所:東京都墨田区横網1丁目3番20号
TEL:03-5611-2121
営業時間:11:00~22:00
定休日:1月1日、2日、施設点検日(不定)
最寄り駅:両国

堀口茉純さん

◆取材・記事監修/堀口茉純

2008年、江戸文化歴史検定1級に史上最年少の25歳で合格。これを機に江戸に詳しすぎるタレント、“お江戸ルほーりー”として活動を開始。 『江戸はスゴイ』(PHP新書)、 『新選組グラフィティ 1834-1868』(実業之日本社)、『TOKUGAWA15』(草思社)など著書多数。
レギュラー番組に、「DJ日本史」(NHK ラジオ第1)、「週末ハッピーライフ!お江戸に恋して」(TOKYO MX)がある。

Twitter:@Hoollii

公式サイト:堀口茉純 / 堀口ますみ|オフィシャルWEBサイト

出典:Let’s enjoy Tokyo