SUSHI TIMES

1万円の親方おまかせコースに興奮が収まらない…!旨い魚が集まる「羽田市場」の鮨屋が最高すぎた

全国の漁師さんからその日獲れた魚を直接買い付け、飛行機などを使って最速で東京に集めている「羽田市場」が新たに鮨店をオープンしました。それが「羽田市場 GINZA SEVEN」(東京都中央区銀座7-14-15 杉山ビル B1)。アラカルトもありますが、オススメは税込1万円の「親方おまかせコース(飲み放題つき)」です。内容は10種類の魚料理と握り鮨の組み合わせで、なんと約100種の日本酒まで飲み放題です。日本酒に詳しくない人でも親方お任せのペアリングで楽しめますよ。花咲蟹のスープや香箱蟹(ズワイガニのメス)、あわび、あん肝を堪能した後に握りがスタート。クロダイやコハダ、サバ、ウニ、マグロ、イカ、穴子、イクラの手巻き……感動しっぱなしです。1万円は高いとはじめは思いますが、親方の丁寧な仕事がされた料理と握りを食べられて飲み放題もついていると考えると逆に安く感じられます。

今回は銀座でカウンターに座って鮨を食べてみたという話である。注文したのは飲み放題付きで1万円のコース。先に結論をいうと、それはもう楽しくて、美味しくて、とても贅沢な時間だった。

本当にうまい食べ物ほど理屈や薀蓄(うんちく)を語るのは野暮だよねと思いつつ、食べた料理と親方との会話を通じて、私が理解できた範囲で美味しかった理由を書いてみたいと思う。

そういう情報は別にいいからという人も、ぜひ写真だけでも見ていってください。

羽田市場が待望の鮨屋をオープン

いきなり話は約1年前に戻るのだが、昨年の12月に「羽田市場」という立ち飲み屋さんの記事を書かせていただいた。取材後も個人的に何度か行っているお気に入りの店だ。

この羽田市場とは、漁師(生産者)と顧客(消費者)を結ぶ独自の流通システムであり、それを運営している会社名。その流れをまとめるとこんな感じ。

1、本当に価値のある魚介類を獲っている、全国の漁師さんや漁協と連携。
2、品質向上のために、血抜きや神経〆などを徹底した商品を直接仕入れ。
3、航空便を使うなど、最速の方法で水揚げされたばかりの魚介類を集荷。
4、羽田空港内に作った自社の荷捌き場を活用して、お客様の元へお届け。

そんな鮮度と品質にこだわる羽田市場が「銀座の一流店が最高の魚を1匹から買えるお店」というコンセプトでオープンさせたのが、銀座八丁目にある直売所であり、そこが夜になると羽田市場の肴が食べられる立ち飲み屋となるよというのが前回の話。

そして羽田市場が満を持して新たにオープンさせたのが、今回訪れた銀座七丁目の「羽田市場 GINZA SEVEN」という鮨屋なのだ。魚が旨いと書いて鮨。この新店情報を聞いた時点で、もう私の期待感はパンパンである。

▲銀座の昭和通り沿いに店を構える、羽田市場 GINZA SEVEN。

この店のテーマはズバリ「日本」。

日本酒、日本料理、刺身、鮨を思う存分食べて飲んでほしいという思いでこの店舗を立ち上げたそうで、おすすめは税込で1万円の「親方おまかせコース(飲み放題付き)」とのこと。

私にとって一回の食事として1万円はかなり高い。自分史上最高額クラスの贅沢なのだが、この店ならその値段以上の価値があるはずだ。ほら、たまにはプロが調理したうまい魚を食べたいじゃないですか。

▲とりあえずビールでスタート。

1万円コースの内容は、10種類の魚料理と握り鮨の組み合わせ。その内容は季節や魚の入荷次第で変わってくるため、毎日が一期一会のフルコースだ。

ただ残念なことに食べるのに夢中になりすぎてしまい、いくつか写真を撮る前に食べてしまったため、この日のコース全品を紹介することはできない。ごめんなさい。それでもすごいからきっと大丈夫。

驚きが詰まった魚料理の数々

最初に出てきたのは、澄んだ具のないスープだった。

御猪口(おちょこ)よりも多く、お椀よりは少ないという量である。

▲温かいスープからスタート。

これは花咲蟹のスープだそうで、一口飲んでみるとズッシリとくるカニ感がすごかった。口に入って喉を通って食道を抜けて胃袋に落ち着くまで、ずっとカニの味がするのだ。これぞ飲むカニ。これだけカニパワーが強いのだが、嫌な臭みの類は皆無。

ここに添付の鳴門わかめと茗荷を加えることで一品の料理として完成するのだが、カニの味を純粋に楽しみたければ、このままスープを飲んだ後に、口直しとしてわかめと茗荷をつまむくらいがいいかもしれない。

この一杯ですっかり体が中から温まったところで、カニが続いて出されて意表を突かれる。今度のカニは福井県産の香箱蟹、ズワイガニのメスだ。

▲もうカニの美味しい季節なんですね。

あえてのカニダブルなのだろう。同じカニでも花咲蟹と香箱蟹では、その味わいが全く違った。

ねっとりとした旨味の塊である内子とプツプツした食感が楽しい外子が、上品な味わいの身と混ざり合うことで、とても華やかな味に仕上がっている。この一品で自分が北陸にいる気分になってきた。

約100種類の日本酒が飲み放題

これはビールじゃなくて最初から日本酒でよかったかと思いつつグラスを飲み干して、テーブルに置かれたドリンクメニューを確認すると、これが飲み放題でいいんですかというラインナップだった。いや、日本酒は正直よくはわからないのだが。

▲日本酒好きの方にはたまらないであろう品揃え。

ここに書かれているのはごく一部。約100種類の日本酒を揃えているそうで、もはや素晴らしすぎてキャパオーバー。私の脳の容量では、今日は料理を味わうことで精いっぱい。この中から日本酒を選ぶ余裕はまるでない。選べるほど詳しくないという方が正しいか。

そこで親方おまかせのペアリングで、勧められるまま日本酒を楽しむことにした。今日は料理もお酒も親方におまかせだ。

銀座の鮨屋でおまかせを頼むといくらになるんだと不安になるが、本日のお支払いはお酒も込みで1万円と決まっているので、その点は心がだいぶ楽である。

▲まずは富久長の八反草(はったんそう)と海風土(シーフード)から。そしてチェイサーに酒蔵の仕込み水。

これでもかと魅力的な魚料理が続いていく

続いての料理は、白身魚二種の煎り酒浸し。煎り酒、聞いたことはあるけれど、こうして口にするのは初めてである。

煎り酒とは醤油が出回る前に使われていた調味料で、酒を沸かして煮詰め、梅干しと鰹節を加えたものだそうだ。なるほど、そういう味がする。親方の柳さんはその見た目こそ超絶クールだが、仕事の邪魔にならない範囲であれば、聞けば何でも教えてくれる。

魚はヒラメと昆布締めにしたハタ。醤油ほど味が強くない煎り酒で白身魚の味や食感の違いを楽しもうという趣向だろうか。どちらもうまい。日本酒に切り替えて正解だ。

▲あえて煎り酒を使うことで、後半に出てくる鮨と味を被らせない組み立てかな。

この店で使っているのは羽田市場が誇る獲れたての魚介達。青魚や甲殻類など鮮度第一のものは当然すぐに出すが、白身魚やマグロなどはあえて数日間寝かすことで、アミノ酸の旨味を引き出しているそうだ。

だったらそこまで鮮度にこだわらなくてもと思ってしまうが、とびきり新鮮な状態から料理人自らの手で万全の管理をして、それを最適なタイミングで出すという流れが大切なのだろう。

次はタタッコ焼きという宮崎県の郷土料理。今日獲れたばかりの小魚やイカを包丁で粗く叩き、香ばしく焼き目をつけつつもレアに仕上げたものだ。

一見すると普通のさつま揚げだが、魚の味がものすごく濃い。加熱したことで生とは違う食感と魚らしさが引き出されている。宮崎あたりの漁師町では、こういうものを日頃から食べているんだろうなーという産地の景色が伝わってくる料理だ。

▲宮崎の定置網で水揚げされた魚が、その日の夜にはこうして調理されているのである。

「この辺りでご飯を少し入れておきましょう」と、親方である柳さんに手渡されたのはマグロ中落ちの手巻きである。

このように目の前で作ってもらったものを、手から手へと手渡しで受け取り、そのまま食べるという関係がなんだか嬉しい。

▲なんだかちょっと照れくさかった。

そしてこの手巻きがさりげなくすごかった。

まず厚みがあるのにパリッと噛みきれる海苔に驚く。味が濃いのに口どけが良く、素人でも質の良さがわかるほどだ。

▲この手巻きは親方が巻く段階で醤油が塗られているので、こちらで醤油を付ける必要がない。

海苔のすごさに感動していると、その味にまったく負けないシャリとマグロが現れる。

シャリは特別栽培米の宮城県産ひとめぼれに、吟醸酒粕を長期熟成させて醸す赤酢の組み合わせ。海苔と混ざりながら口の中でハラリとほぐれていく。

この円柱型で食べやすい手巻きは、下からシャリがこぼれないよう海苔で底を覆ってあった。なるほど、世の中は知らないことがたくさんだ。

▲もちろんマグロもうまいです。

ここまでで胃袋はともかく脳味噌が満足している感もあるのだが、もちろん料理はまだまだ続く。

驚きはどこまでも続いていく

小鉢でちょこんと出されたのは、ピリッとした刺激で舌に気合を入れ直してくれる、カツオの青唐辛子叩き。

カツオは鹿児島県産のスマガツオとのこと。

▲丼のごはんでもいけるやつだ。

これだけで一晩ずっと晩酌の相手ができるんじゃないかという力のあるツマミで、日本酒の追加をいただかざるを得ない。

▲醸し人九平次のEAU DU DESIR(オウ・ド・デジール。希望の水という意味)、〆張鶴のしぼりたて生原酒。

すっかり舌が目覚めたところで、アワビを日本酒と大根で2時間煮て、その煮汁で伸ばした肝と和えたものが出てきた。

大根に含まれる酵素がアワビに作用するそうで、40年後の私が食べても歯で簡単に噛みきれるだろうという柔らかさだ。でも弾力は絶妙に残っている加減が嬉しい。

これもまたこれまでとは方向の違う旨味の塊で、このコースの中にいったい何種類の旨味があるんだと感心してしまう。化学式では表せない複雑な旨味成分。

▲肝を纏ったアワビですよ、そりゃうまいさ。

ボーっと幸福な余韻に浸っていると、ここで招き猫の形をした最中が到来。

なんだなんだ、もうデザートかな。

▲おや、招き猫がやってきたぞ。

謎の展開に戸惑っていると、「あん肝とスイカの奈良漬です」と親方。

え、あん肝と奈良漬の最中? あんこじゃなくて?

正解を聞いた後の方が戸惑いが大きくなってしまった。このままかじるのが正しい食べ方なんだろうけれど、中身が気になりすぎたのでオープン。あら、本当にあん肝と奈良漬だ。

▲奈良漬がピクルスのあん肝バーガーともいえるかな。知っている味同士の組み合わせだけど、その結果が想像できない。

最中と奈良漬とあん肝と私。我が人生の中で一度たりとも組み合わさることがなかった3名によるトリオが結成されている。これはどういうことだろうと目を泳がせながらかじりつくと、ついつい膝を叩いてしまった。

合う!ものすごく合う!

パリッとした最中、サクッとした奈良漬け、ねっとりとしたあん肝という全く違う歯ごたえが、この並び順だからこそという感じで噛み合ってくれる。そして意外なことに味の相性も良い。こういった自分では絶対に思いつかない組み合わせに出逢う喜びこそ、外食をする醍醐味だ。

もう一発膝を叩いておこう。合うよ!

▲山忠本家酒造の義侠は銘柄を見て2018かと思ったら2008。10年熟成純米吟醸!

そして鮨がやっぱり旨い

ここでカウンターに石の角皿が敷かれ、そこに二種のガリがたっぷりと置かれた。これは待望の鮨タイムに突入の合図だろう。

ガリはキリっとした辛味を残す甘酢漬けと、まろやかに仕上げたたまり醤油漬け。ちょっと口直しに食べてみると、これがどちらもつまみとして十分成立する味で恐れ入る。隙がないとはこういうことか。

▲ガリってこんなにうまいのか。
▲おまかせコースなので、何が出てくるのかはわからない。

気合の入った表情で握る親方をじっと見つめつつ、ちょっとガリをかじってクイッと酒を飲む。文句なく楽しい時間だ。

最初に出されたのは、宇和島のクロダイだった。醤油を塗った上からスダチの皮で香りを効かせて、ちょっとクセがあるイメージのクロダイを力強い味そのままにスッと食べさせる。ハラリとほぐれるシャリがまたうまい。

▲全部味をつけて出してくれるので、繊細な握りに醤油をつけようとして崩す心配がない。

続いては有明のコハダ。有明ってお台場近くの有明ですかと聞いたら、有明海の有明だった。そりゃそうか。酢が効き過ぎてなく、しっかりとコハダの味がする。

たまに何を食べているかわからなくなるようなコハダを出す店もあるが、これはハッキリとコハダですよと主張してくる。食べ慣れているネタだからこそわかる良さだ。

▲久しぶりにうまいコハダをいただいた。

ここでつまみを一品挟む。ナミクダヒゲエビという鹿児島の錦江湾で獲れたエビの沖漬けだ。全く聞いたことのない名前で、3回ほど聞き直してしまった。

水深150メートルという深い海に住むエビのため、甲羅が脱皮したてのように柔らかく、炙れば頭も丸ごとサクッと食べられるそうだ。

▲ナミクダヒゲエビ、覚えました。

そしてその頭の下には、ねっとりと味の濃い生の尻尾部分という二段構え。このエビのうまさは知らなかった。

鮮度が落ちやすかったり、なかなか量がまとまらなかったりで、ほとんど生産地でしか消費されてこなかった隠れた逸品を、このように堂々と出してくる意志の強さ。ある意味では一番羽田市場らしい一品だ。

▲このエビにはこれですと出されたのは七田(しちだ)と美丈夫(びじょうふ)。さっきからすごくたくさん飲んでいるみたいですが、少しずつ出してくれるのでたくさんの種類が飲めているだけです。

柚子胡椒を効かせて青森県三沢産のサバ。ハリのある締まった身に程よい脂。

そろそろ酔いが回ってきたところで、このピリッとくる刺激が嬉しい。

▲脂が勝ちすぎていないのが良い。

まだまだ続く凄い鮨

海苔を使わずに、ネタの良さと親方の技術で握った雲丹がすごかった。

今日使った魚介の中で、この黄金色をした雲丹だけは外国産とのこと。これは上質の昆布が生える北方領土で獲れるバフンウニで、ウニの大好物といえば昆布だ。

日本だと昆布も人間が食べるため、雲丹漁と昆布漁を両立させているのだが、ロシアでは昆布はほとんど獲らない。昆布食べ放題の海で育った雲丹なのである。

▲雲丹の粒が立っている。

うまい魚はうまいエサを食べるからうまい、雲丹の味もエサとなる昆布の味に比例するというのが親方の持論。確かに昆布の旨味と残り香を感じる見事な雲丹だった。

もちろん国産にも良い雲丹はたくさんあるが、今日の仕入れはあえてのロシア産なのである。うまい雲丹はすごくうまい。

熊本の天草からやってきたのは、しっかりとしたホンマグロの赤身。マグロってやっぱりうまいですねと納得の味だ。

▲来世でも美味しいマグロを食べたい。
▲最後にどうですかと勧められた酒は、月に1本しか入荷がないという而今(じこん)。メロンのような鮮やかな香りに驚く。

イカの握りはケンサキイカ。細やかな切れ込みを入れて軽く炙り、カボスを絞って塩を振りかけるという手間が掛かっている。

口に入れるとまず塩味と酸味が一瞬きて、すぐにイカが持つねっとりした甘みが到来するという時系列のグラデーション。炙ったことによるサックリとした歯切れ感が気持ち良い。

▲イカの鮨ってこんなにうまくなるのかという驚き。

長崎県対馬のアナゴ。30分かけてフワッと仕上げるという煮アナゴは文句なく柔らかで、ついつい目じりが下がってしまう。甘すぎない煮詰めが好みの味だ。

▲フワーっとしてるんですよ、フワーっと。

最後はたっぷりのイクラを手巻きでいただいた。北海道・紋別産の生の筋子から親方が作った自家製のイクラで、醤油でサッと洗う程度の漬け加減だ。まだ皮が固くなる前の上物で、噛むと舌にその味だけを残して溶けていく。

▲海苔とイクラの相性もバッチリ。

そろそろお茶が欲しいかなというタイミングで、ちょうど出てきた濃い目の緑茶。

ずいぶんうまいお茶だなと思ったら、全国茶品評会で農林水産大臣賞(日本一)を3回受賞した有村幸二氏の特上煎茶だと後から知った。

▲食事中に飲むにはうますぎるだろうけど、食後の締めにこれは嬉しい。
▲親方が開店記念にいただいたという湯飲み。

そして最後に、切りたてだという葛切りが出て、1万円のコースはフィナーレを迎える。

この葛切りがもうプルンプルン。波照間島の黒糖で作った黒蜜をたっぷりとつけて、あっというまに食べ終えた。本当に最後まで隙がない。

▲ごちそうさまでした。

やっぱり1万円は高くなかった。次は季節が変わった春頃にまた来ようか、いや魚のうまい真冬にまたくるか。今度はおまかせコースではなく、アラカルトで注文するのも絶対に楽しそうだ。

▲あれもこれも食べたいメニュー。

そんな妄想を抱きつつも財布は薄い。また来られるのがいつかはまったくの未定だが、いつかまた来ようと思える店が見つかって本当によかった。

羽田市場 GINZA SEVEN
住所:東京都中央区銀座7-14-15 杉山ビル B1
TEL:03-6264-2618

公式Facebookページ

出典:ぐるなび