SUSHI TIMES

「セカ就」で自ら未来を切り開く日本人が増えるでしょう

この記事のまとめ
1、「セカ就(世界就職)」にはチャンスが豊富にあります。
2、海外にもキャリアの選択肢があると考えれば、可能性が一気に広がります。
3、現地社員のマネジメントスキルが、これから必ず重宝されるでしょう。

「セカ就」を意識している日本人は、今のところ、10%以下だと思います

本日は、海外就職研究家として、日々「セカ就(世界就職)」を日本に広めているもりぞおさんに、セカ就の現状と将来について詳しくお話を伺えればと思います。最初の質問ですが、セカ就は日本でどのくらい認知されているのでしょうか。

 今のところ、おそらく日本の90%以上の人々は、日本で働く以外の選択肢を考えていないように思います。就職先・転職先として、少しでも世界を意識しているのは労働人口の10%以下でしょう。すでにセカ就を意識している人は、2種類に大別できます。1つは、すでに世界のどこでも働けるスキルをもつ「ハイキャリア」の持ち主。もう1つは、日本企業や日本社会の水が合わないとか、海外の地に魅せられ、海外で働くことにも興味があるといった「異端派」です。その他の方々は、多くが世界での就職・転職をものすごく大変なことと捉え、漠然と敬遠しているのではないでしょうか。

 私は、セカ就を意識しないのが悪いこととは思いませんし、セカ就の人口がむやみに増えることがよいとも思っていません。無理をして海外に出る必要はありません。状況をよく理解した上で、自分にとってプラスになると思う人だけが飛び出していけばよいのです。そうしないと、不幸な人が増えるだけですから。ただ、個人的には、特にセカ就の中心地であるアジアへの就職・転職は、例えば東京から九州や北海道へ就職・転職するのとさほど変わらないと思いますし、多くの人はそう考えた方が得をすると思います。別に日本を捨てるわけではなく、いつ戻ってきてもいいのです。実際、数年間アジアで経験を積んで、また日本国内に転職する方もたくさんいます。
 私がセカ就をお勧めしている理由は、今後日本では仕事が減っていくことが予想される一方で、ある程度のスキル・経験がある人々にとって、海外にはチャンスが豊富にあるからです。今なら優良求人でも競争相手は決して多くありません。例えば、新卒採用では超難関の日系大手企業でも、現地採用の求人倍率はぐっと下がります。
 ただし、新卒でいきなり世界に打って出るのは、可能性がないとは言いませんが、かなり難しいでしょう。日系企業も外資系企業も現地企業も、ほとんどは即戦力を求めています。また、どの国もその地を豊かにしてくれるスキル・経験のある人を求めていますから、新卒ではなかなか労働ビザが下りません。セカ就を志向する方も最初は日本で就職して、少なくとも3年くらい経験を積んだ上で世界を目指すことをお勧めします。

海外でうまくやっていけるのは、「今できることが正義」と考えられる人

–しかし、セカ就はチャンスばかりでなく、大変なことも多そうに思えるのですが。

 確かに大変な面もあります。まず確実に、20代でもいきなりマネジャーに任用され、大きな権限が与えられます。しかも、部下は現地の方々ばかりです。一から十まで自分で考えて動かなくてはなりません。どんどん仕事を任せてもらいたい人にとっては最適な環境ですが、そうでないなら海外での就職・転職は難しいと思います。また、国や都市によって程度は違いますが、日本に比べればどこも不便な点や整っていないところが多々あることは間違いありません。例えば、ほとんどの地域で、鉄道が止まるのは日常茶飯事です。そういったことをいちいち気にしていては海外では暮らしていけないでしょう。

 それから、日本では「100点」の完璧な仕事を求められることが多いですが、海外ではたいがい「70~80点」でかまいません。どの国もよい仕事やサービス、製品の基準が日本ほど高くないのです。また、日本では考えられないような事態が頻繁に起こります。ですから、日本での仕事のやり方を貫こうとすると挫折しがちです。例えばドイツのすし屋では、日本ならお客様に出せないような賞味期限ぎりぎりのマグロしか手に入らないそうです。江戸前にこだわろうとしたら、ドイツですし屋はできません。逆に、何とかして古いマグロを楽しんでもらえる工夫ができれば、そのすし職人はドイツで成功できるでしょう。状況に合わせて柔軟に対応し、「今できることが正義」と考えられるかどうかが、成功と失敗の分かれ道になります。
 最近、私はカンボジア・プノンペンで「サムライカレー」というカレー屋を開きました。カンボジアで日本のカレーを広めたいとの思いで始めたのですが、実はカンボジア人は辛いのがあまり好きではなく、日本のカレーの味をなかなか理解してくれません。そこで、皆がよく食べているフランスパンにカレーを挟む「サムライカレーパン」を作って販売したところ、これが想像以上に好評で、上々の売れ行きです。カレーはダメでも、カレーパンなら興味を示してくれるのです。このようにピンチをチャンスに変える発想の転換が、セカ就で成功するのに欠かせないと思います。

ほとんどの仕事で、「日本人であること」が強みになります

–求人はどのような職種が多いのでしょうか。

 まずほとんどの方に共通するのは、日系企業・外資系企業・現地企業のいずれに勤めるにしても、「日本人である」ことが最大の強みになるということです。ですから、外資系企業や現地企業の場合、日本人社員の求人で多いのは日本企業向けの営業です。
 日系企業の場合は、多くの方が現地採用社員として採用されることになります。日本本社から来る駐在員と現地社員の間に立って、現地社員のマネジメントなどを行う役目で、大変重要なポジションです。なぜなら、ほとんどの駐在員は、本社の意向には詳しいですが、現地のことをあまり知らず、現地ニーズを吸い上げることが苦手だからです。本社の意向と現地のニーズの両方を熟知するのは現地採用社員の他にいないのですから、両方を企画に落とし込んで提案・実行するプロセスで中心的な存在になるのは当然の流れです。

 最近、インドで鍵つきの冷蔵庫が売れていますが、これはある韓国企業が、「お手伝いさんが食料を盗むことに悩んでいる家庭が多い」という現地のニーズを吸い上げてヒットさせたもの。またLINEは、イスラム教の人々を対象にラマダンスタンプ(LINEキャラクターたちが断食で空腹になっていたり、夜に皆で食事をしているスタンプ)を開発するなど、現地の声をよく反映したビジネスを展開しています。今後、アジア経済がさらに発展し、ビジネスの場として魅力的になればなるほど、このような商品・サービスの企画力と実行力が求められるようになるでしょう。現地採用社員の活躍の場は、今後ますます大きくなると思います。
 さらに、現地採用社員には「現地社員のマネジメントスキル」が身につきます。海外では、日本と同じマネジメント手法では絶対にうまくいきません。その地の文化や慣習を踏まえた上で、部下のモチベーションを上手に高め、彼らの心をつかむ必要があります。そのマネジメントスキルは、今後、あらゆる日系企業が求める価値の高い能力となるでしょう。これは、日本で働いていては決して磨けないものです。

–現地採用社員の待遇面はどうでしょうか。

 日本企業で正社員としてある程度の期間キャリアを積んでこられた方は、給与が下がることを覚悟した方がよいですが、その分生活費も安くなりますから、過度の心配はいりません。私は34歳でセカ就を試みましたが、その際はだいたい前職の60~80%ほどの給与を提示されました。そのくらいであれば、日本と変わらず生活できるはずです。ただし、海外は年功序列制ではありませんから、転職時の年齢が高くなるほど下がり幅も大きくなる可能性が高いでしょう。また、インターナショナルスクールや日本人学校などの教育コストだけは下がらないため、お子さんがいらっしゃる場合は注意が必要です。もちろんパートナーの方の理解も不可欠ですから、家庭があるとハードルは高くなります。
 以上の理由から、現在のところセカ就を望む中高年は比較的少なく、25~35歳くらいがセカ就人口の中心です。ただ、30代後半以降でも求人そのものはありますから、パートナーの方の理解があり、給与や教育費などの問題がクリアできるならぜひ挑戦していただきたいと思います。

セカ就の第一歩として、その地を「お試し旅行」してみましょう

–それでは、実際にセカ就に踏み出すためには、どうしたらよいのでしょうか。

 詳しいことは『アジア転職読本』や『セカ就!』に書いていますので、本気でセカ就をしたい方はぜひそちらを読んでいただきたいのですが、第一歩として、セカ就を希望する地を旅行することをお勧めします。個人的には、たとえ世界で就職・転職しないとしても、できるだけ多くの方に旅していただき、世界の状況を知っていただきたいと考えています。そのために、私は会社見学・インタビュー・観光を一気に味わえる「海外就職ツアー」をインドネシア・ジャカルタで時折開催しています。新興国の現状を知りたい大学生、現地赴任の可能性がある方、そして海外就職を考えている方など、さまざまな方がこれまでツアーに参加してこられました。
 もし副業が許されているなら、お試しでビジネスを始めてみるのもよいでしょう。このようにして土地に慣れ、時にお試ししてから本格的な就職活動に入ると、スムーズに進めやすいはずです。なお、手前味噌ですが、先ほど紹介した「カンボジア起業体験研修 サムライカレープロジェクト」では、働く体験・起業体験を比較的簡単に味わっていただけるプログラムを用意しています。

新卒では就けなかった人気職種の経験を、海外で積むという方法があります

ところで、セカ就のメリットとは何でしょうか。

 先ほどお話しした「現地社員のマネジメントスキル」が身につくことも、セカ就の大きなメリットといえますが、他には、日本ではなかなか就くのが難しい人気職種の経験を海外で積めることが挙げられます。例えば、自動車のデザインに携わりたい方は、当然日本の大手自動車メーカーを目指しますが、その新卒採用は大変な競争倍率で、入れない方も多いのが現実です。そこで、日本には自動車部品メーカー・関連メーカーがたくさんありますから、まずそのうちの1社に入社して経験を積むという手があります。同時に英語を勉強しておけば、そのうち海外の自動車メーカーという選択肢が出てきます。そして海外の自動車メーカーで働いた後、いずれ日本の大手メーカーを目指すというキャリアパスもあるわけです。キャリアというのは何より積み重ねが重要で、そのステップは時に海外にあるかもしれないのです。新卒で就職できなかったから、もうその仕事には絶対に就けないということはありません。日本国内だけでなく、海外にもキャリアの選択肢があると考えれば、可能性が一気に広がるでしょう。
 私の知り合いに、日本で通訳を目指していた方がいます。しかし、日本は通訳のレベルが高く、未経験ではなかなか雇ってもらえませんでした。そこで粘り強く募集を探したところ、LinkedInでインドでの日英通訳者の求人を発見しました。インドでは日英通訳者が少なく、未経験でも十分にやっていけたそうです。そこでは通訳だけでなく、インド人に英語を教える経験もしました。2年間インドで働いた後、現在はマレーシアで日英通訳に携わっています。いずれは日本やアメリカでやっていきたいと考えていらっしゃいます。このように競争の少ないフロンティアでキャリアを磨く方法もあるのです。
 それから、「たくましくなれる」というのも1つのメリットかもしれません。何しろセカ就は先人が少ないですから、キャリアの階段を自ら探し、自ら決めていく必要があります。どうなるか分からないわけですから、最初は不安も大きいですが、やってみると意外とどうにかなるものです。当然ながら失敗もありますが、めげずに次のチャンスに向かえばいいのです。この経験を20代、30代でしておくと、その後の人生をサバイブしやすくなること請け合いです。私自身、サムライカレーを始めてから、いざとなったらカンボジアでカレー屋をやっていけば、十分に生きていけると思えるようになりました。価値を提供したら、その分の見返りが得られる。この原則さえ分かっていれば、何とかなるものなのです。

自分のキャリアは自分で切り拓くことが、これからは主流になるでしょう

–2030年の「働く」は、一体どのようになっていると思われますか。

 当然ながら、セカ就は当たり前になっているでしょう。それと共に、自分のキャリアを企業任せにするのではなく、キャリアの階段を自ら探して組み立てながら働くスタイルが、おそらく日本でも主流になっていくはずです。もう大企業といえども安泰ではない時代です。それなら、自分のキャリアは自分で創った方がよいと思うのが自然ではないでしょうか。
 それから、先にお話しした「日本人である強み」は、いつまで続くか分かりません。円の価値が下落して日本経済への信頼がなくなってしまったら、日系企業のビジネスは縮小するでしょうし、日本企業相手のビジネスも少なくなります。そうなると、日本人向けの求人が減ってしまうことが想定されます。日本人が世界で経験を積むなら、今のうちがチャンスかもしれません。
 日本に関していえば、日本人が国内でしかできない仕事「ラストワンマイルジョブ」のうち、特に老人と外国人観光客や移民を顧客とするビジネスは今後も成長するだろうと思います。その他の多くの職種は、いわゆるフラット化の影響を強く受けることになるのではないでしょうか。

権限を与えれば、人は力を発揮するものです

最後に、企業や人事の方々が「セカ就」から学ぶべきことがあるとすれば、どのようなことでしょうか。また、皆さんへのメッセージをいただければ幸いです。

 サムライカレーでは大学生や若者たちが働いていますが、彼らに権限を与えると、本当に生き生きと考えて行動し始めます。先にお話ししたサムライカレーパンも、大学生の受講生による発案です。また、そのカレーパンを近くの学校で販売するために学校に許可をとるなど、彼らは次々にアイデアを生み出し、行動に移しています。正直なところ、私はそれらを承認しているだけ。それでいいのです。自ら考えたことを自ら実行すると、モチベーションが上がるだけでなく、成否にかかわらず、その人が大きく成長します。同時に、誰がどのような面で優秀か、何に向いているかがすぐに分かります。そこで私は適材適所に若者を配置し、時に抜擢するのです。実績を上げれば抜擢されるのですから、組織の風通しもよくなります。
 経験の乏しい大学生や若者たちですら、このように能力を発揮できるのですから、日本企業はもっと若手社員に仕事を任せた方がいいのではないでしょうか。例えば、上層部が一切口を出さずに20代・30代に任せてみるプロジェクトがあってもよいのではないかと思います。そのプロジェクトが、きっと若手を大きく伸ばす原動力になるでしょう。

インタビュー:山下健介

森山たつを(もりぞお)氏プロフィール
海外就職研究家
1976年生まれ。早稲田大学卒業後、日本オラクルに入社。製造業向けの技術営業に7年間携わった後、日産自動車に転職。世界7カ国のスタッフと2年間、グローバル物流管理システムを構築する。その後、1年間にわたる世界一周旅行、2年間の日本のIT企業勤務、1カ月のフィリピン英語留学を経て、2011年12月よりアジア7カ国での就職活動を行う。ほぼすべての国で内定を得るも、啓発活動のため、現地就職よりも「海外就職研究家」の道を選ぶ。現在は、海外就職に関する執筆・講演および海外視察・就活ツアーの企画・運営、海外就職を考える人たちの交流コミュニティの運営などに携わっている。主な著書に『セカ就! 世界で就職するという選択肢』『アジア転職読本』『はじめてのアジア海外就職』などがある。また、現在、海外起業体験プログラム「サムライカレープロジェクト」を主催している。

出典:2030WORKSTYLE