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【渋谷 くろ嵜】高みを目指す気鋭の寿司職人は今、まさに味わいどき 

毎朝、市場へバイクに乗って仕入れに向かう黒㟢氏。「固定観念なく自分の寿司を出していきたいと思っています。品数が多いのも、より多く味わってもらいたいためですね」。

KAZUKI KUROSAKI
黒㟢一希
Age 35
高校卒業後、18歳で浅草の寿司店の門を叩き、その後世田谷へ。2015年2月に独立した。当初は代官山、中目黒で物件を探していたという。

高みを目指す気鋭の寿司職人は今、まさに味わいどき

白木を多用しスカッと清潔感のある店構えにあつらえる寿司屋が多い中、外観には京都の町家の如き黒塀を配した。しかも、店があるのは都内の主要エリアの中でも、寿司屋不毛の地、というイメージの強い渋谷の、さらに中心部から離れた一角。

店内もまた、個性的。入り口からカウンターの様子をすぐには窺えず、少々のアプローチを経て中に入ると、黒を基調に客席側の照明はぐっと抑えめ。つけ場が、まるで舞台のように浮かび上がって見える。

ステージの如きつけ場に立つ主・黒㟢一希氏は、1980年生まれ。こちらの予想を裏切る店造りや場所選びは、盛んな意気の表れか(もしくは、天邪鬼?)。そして、ご覧のとおりの好男子。様子の良さや、所作の美しさからは、寿司屋という“さらし”の商売への天質が漂う。

独立するまでは、浅草の庶民派の老舗や、世田谷のいわゆる大衆店で経験を積んだという。いずれもいわゆる高級店ではないし、都心のスタンダードな寿司店と比べると大箱だ。が、それだけに、数をこなす経験と、休日の他店研究をかかさず、やりたい店の具現化をめざしてきたはずだ。

その経験を踏まえて開いた自身の店では、つまみと握りを織り交ぜて、おまかせのコースで供する。その流れには緩急があり、バランスも上々。

左から名残のとらふぐの白子。あさつきを挟み込んでいる。中心のしめさばは、かんずりに、白板こぶをのせて。右は愛知のトリ貝だ。

そして寿司は、決して奇を衒ってはいないが、伝統一辺倒でもない。ネタの温度や、火入れや〆め方の塩梅から、素材の特性を見定めながら試行錯誤をしているのだろうと感じさせる。そこからは、もっといい寿司を、というポジティブな“野心”のようなもの、職人としての勢いが伝わってくる。ちなみに日本酒の品揃えも厚く、かつ意欲的。望めばテイスティングさせてくれるあたりも、客の心をくすぐる。

黒㟢氏は日本酒にもこだわる。いまのおすすめがこちらの3本。左から福岡県・糸島の白糸酒造の田中六五。名前は精米歩合から。水戸部酒造の山形正宗は初の別注品。宮城県下でしか出回っていない綿屋の小僧山水。

野心、大いに結構。若い親方が続々誕生している現在、そのくらいでなくては頭角を現せまい。今年2月に1周年を迎え、店の評判は、1馬身リードの感あり、だ。 (文・小石原はるか)

まるで町家のようなシックな店先。予算は¥15,000〜。

出典:GQJAPAN