SUSHI TIMES

料理人の技とセンスが光る!味覚と想像力を刺激するグルメドキュメンタリー5選

『世界が愛した料理人』『二郎は鮨の夢を見る』『ステーキ・レボリューション』など、想像力をかき立てる魅惑的な料理を扱ったグルメドキュメンタリー映画をピックアップしてご紹介

秋の気配が漂う今日このごろ。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。

今回お届けするのは“秋”と聞けば迷わず「食欲の秋!」と答えてしまう人には堪らない映画まとめ。想像力をかき立てる魅惑的な料理を扱ったグルメドキュメンタリーをピックアップしてご紹介しよう。

まだ食べたことのない料理や、今にもヨダレが出てしまいそうなシズル感満載の“見るだけで美味しい料理”が、映画では思う存分味わえる。そしてその舞台裏を垣間見ることで、その料理はより魅惑的な一皿となる。

『二郎は鮨の夢を見る』(2011)

当時29歳だったアメリカの新鋭映像作家デヴィッド・ゲルブが制作・監督・撮影を務めた本作は、85歳の寿司職人で「すきやばし次郎」の店主である小野二郎を追ったドキュメンタリー。舞台はミシュランガイドで最高ランクの三ツ星を6年連続で受賞している銀座の地下にある超有名鮨店「すきやばし次郎」だ。

カウンターが10席しかない小さな店。メニューは最低3万円からで、築地市場から仕入れたその日最高のネタを使ったお任せコースのみ。

(C)2012 Sushi Movie, LLC

本編は店主の小野二郎の手のアップからはじまる。店の扉を開ける軍手をはめた手。軍手をはずして店内の照明のスイッチを入れる。本編には部下の職人たちの手も度々映し出される。手と共に映し出される食器や調理器具、厨房から客席まで店内すべてがピカピカに磨かれているのも目を引く。

マグロの柵を滑らかに切る手、海苔を炙る手、魚に塩をする手、寿司を握る手……。 “寿司の神様”と呼ばれるその職人と弟子たちの美しい仕事を見たら、一度は食べたいと必ず思うはず。

(C)2012 Sushi Movie, LLC

『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(2011)

スペイン・ロザスに店を構える洗練されたレストラン「エル・ブリ」。営業期間は4月から10月、料理は全てコース料理で毎シーズン、メニューを一新し、同じ料理は二度と提供されない。訪れた客に厨房を見学後に食事を愉しんでもらい、食後に厨房で別れの挨拶をするのが、エル・ブリ流のおもてなしだ。

シェフを務めるフェラン・アドリアが生み出す芸術な料理を味わうために、45席しかないシートを求めて世界中から年間200件もの予約が殺到する「世界一予約が取れないレストラン」として有名な三ツ星レストラン、だった。過去形なのは2011年7月30日でこのレストランは閉店したからだ。

スクリーンには数々の独創的な料理が映し出され、その佇まいはまるでアート。一方で、彼の料理は徹底した科学的根拠のもとに成り立っている。アドリア氏にとって料理は感覚的なものではなく理論的なもの。

グルメな人なら一度は耳にしたことがあるだろう、亜酸化窒素を使って食材をムースに加工する「エスプーマ」の技術は彼が発明したものだ。まるで科学実験でも見るかのような調理シーンは奇抜でワクワクが止まらない。

『ステーキ・レボリューション』(2014)

監督のフランク・リビエールが「パリで最高の精肉店」に選ばれた店のオーナーとともに、世界一美味しいステーキを探すため20カ国・200軒以上のステーキハウスをめぐる旅を追ったドキュメンタリー作品。

2年かけて世界中の食肉業界のキーパーソンたちに話を聞いた2人は、世界中のさまざまなステーキを食べ歩く……と聞くと、何やら陽気で楽しげな作品かと思いきや、「美味しいと言われる牛肉は、一体どのようにして作られるのか」という問題を追求した一作となっている。

知られざる「牛肉」についての話が満載で、国によって「美味しい」の傾向や脂身に対する評価が違うのも興味深い。

とはいえ、飯テロ的なビジュアルは随所に登場し、3位として日本の「築地さとう」が登場。

「肉の達人」として世界に知られる精肉店オーナーが和牛に感動するシーンには、長年日本に住む観客にとっては「そうだろう!そうだろう!」と心で大きく頷きたくなる。

『99分,世界美味めぐり』(2014)

グルメドキュメンタリーの中でも異彩を放つのが、食べ手の情熱を追ったこのスウェーデン発のドキュメンタリー。

世界各地のミシュラン星つき店をはじめ、知られざる土地の料理まで、グルメガイド「ミシュラン」を聖書に、最高の一皿を求めて飛び回る美食家たち。そんな中で「フーディーズ」と呼ばれる、カリスマ美食家ブロガーたち5人の食を巡る旅を追うのだが、彼らの経歴が実に個性豊かだ。

シェル石油の元重役から世界的音楽レーベルの元オーナー、タイ・バンコクの金鉱会社の御曹司、リトアニア出身のスーパーモデルに、香港生まれのフツーのOLまで。彼らは撮影禁止の店でスマホ撮影を許され、時として店から煙たがられる。

訪れる店は「フロコン・ド・セル」に「アルサック」、「41デグリーズ・エクスペリエンス」「ピエール・ガニエール」「菊乃井」と名だたる名店がズラリ。

本編でも「美食家にとって日本は必ず訪れたい楽園」と語られるほど日本、特に東京では世界中の美味しい料理が食べられる。

東京、京都、パリ、ロンドン、ニューヨーク、コペンハーゲン、ストックホルム、バルセロナ、オスロ、マカオ、香港、杭州etc.世界中の都市を巡り、紹介されたのは9カ国24の料理。タイトル通り、99分に渡って美食を巡る旅が繰り広げられる。

私たちは本作で普段はSNSから発信される普段はお目にかかることさえ難しい至高の一品をフーディーズの目を通して目撃する。美食家ブロガーのプロ魂がそこにはある。

『世界が愛した料理人』(2016)

そして今回公開となった本作。スペイン、バスク地方で名店「アスルメンディ」をプロデュースし、スペイン史上最年少でミシュラン3ツ星を獲得した料理人エネコ・アチャ。2017年には六本木に「エネコ東京」をオープンさせた彼が、食の真髄を探求するために世界の名店を訪れる姿を追う。

まず登場するのはスペインの「サンパウ」、フランスの「ラトリエ」。フレンチの神様と呼ばれ、2018年8月に惜しまれつつもこの世を去ったフランス料理の巨匠ジョエル・ロブションの姿も目にすることができる。そしてやがて辿り着いた和食の世界では世界最年長の三ツ星料理人・小野二郎の名店「すきやばし次郎」や「龍吟」、などが登場する。

そして今回公開となった本作。スペイン、バスク地方で名店「アスルメンディ」をプロデュースし、スペイン史上最年少でミシュラン3ツ星を獲得した料理人エネコ・アチャ。2017年には六本木に「エネコ東京」をオープンさせた彼が、食の真髄を探求するために世界の名店を訪れる姿を追う。

面白いのは欧米と日本の料理人たちの違い。

動と静、華やかさとワビサビ、革新と伝統。愛情表現が欧米と日本ではずいぶん違うように、料理に込める愛は同じでも、その想いや志が発露する姿形がまるで対照的なもののように映るのはとても面白い。

ところでミシュランって?

今ではグルメな人たちにだけでなく、巷にすっかり浸透した「ミシュランガイド」。今回紹介した作品にも、このミシュランガイドで星をもらったお店が何度も登場する。ここでミシュランについて少し知っていると、今回紹介した映画たちをより楽しめるはずだ。

「ミシュランガイド」とはフランスのタイヤメーカー、ミシュラン社から発売されているガイドブックの総称。

さまざまな種類がある中、一番有名なのはなんと言っても「レッド・ミシュラン」と呼ばれる優れたホテル・レストランの情報を集めたガイドブックだ。優れた店には星が与えられるが、星の数によってその店のランクが異なるのは多くの人の知るところ。ではこの星には一体どんな意味があるのだろうか。

ミシュランの星は、世界中に派遣されたミシュラン社の調査員によって決定される。調査員は決して正体を明かさず、一般の人と同じように予約をし、食事をし、料金を支払う。1人で年間240回ほど調査をし、毎日世界のどこかで1人以上は店を訪れていると言われている。

調査する項目は5つ。

1. 素材の質が良いかどうか

2. 味や完成度など調理の技術がどれほど高いか

3. 料理に独創性があるか

4. 総合的なコストパフォーマンスはどうか

5. 料理が安定して提供されているかどうか

匿名で調査が行われた後に、今度は身分を明かしての訪問調査が行われ、シェフやオーナーにインタビューが行われる。この際に他の調査員などによるクロスチェックも行い、平等な評価がなされるよう工夫されている。

こうして行われた調査報告に読者の意見も反映され、調査員、編集長、ガイドブックの総責任者の合議で星の数が決定されるというわけだ。

ミシュランの星は最大で3つまで。もちろん多ければ多いほど評価は高いとされる。

一ツ星……そのジャンルで特に美味しい料理

二ツ星……遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理

三ツ星……その料理のために旅行する価値がある卓越した料理

もちろん星を取ることさえ難しいのでひとつでも星があれば十分に美味しい料理を堪能できるお店と思って間違いないだろう。

これを踏まえて、ぜひ公開中の『世界が愛した料理人』も楽しんでみて欲しい。どんな味だろう、どんな舌触りだろう……さらに想像力がかき立てられるに違いない。

最後に

素晴らしい料理人はもれなく食べることが好きだ。食べることは生きること。あなたも、いつか特別な日に訪れてみたいと思う店がきっと見つかるはずだ。それまでは想像力を駆使して、スクリーン越しの逸品を存分に味わおう。

出典:FILMAGA