熱海に佇む一流店。「鮨 梅清」で“職人の遊び心”を堪能する贅沢 | SUSHI TIMES

熱海に佇む一流店。「鮨 梅清」で“職人の遊び心”を堪能する贅沢

海の街<熱海編> Vol.10
男には、家でも職場でもない、サードプレイスが必要だ。それは解放的で、発見があり、人との出会いのある場所であってほしい。その候補として挙げたいのが、熱海である。今回は青山からポートランドへ、そして熱海へ辿り着いた職人が提供する極上寿司のお話。
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玉砂利の敷かれた入り口を抜け、のれんをくぐると、白木の上質なカウンターが迎えてくれる。今年5月末にオープンしたばかりの「梅清」は、熱海の賑わいの中心地にありながら、洗練された雰囲気をまとう寿司屋だ。

カウンターを挟んで店主の芹澤幸光さんと一対一で向かい合う。芹澤さんが寿司を握り始めると、店内の空気がピンと張りつめる。いつも行く居酒屋とは明らかに異質な雰囲気に、背筋が伸びるような思いになった。


しかし、話してみると、芹澤さんはとても気さくな職人さんだ。素材、握りの技術、いろいろなことを丁寧に教えてくれる。

「アワビ、サザエ、伊勢海老。ここには熱海港や網代港で水揚げされた新鮮な魚介類がたくさんあります。特にこの辺りのサザエは絶品。天然の黄金出汁はいろいろなメニューに使えますしね」(芹澤さん、以下同)。

まずは“究極の食中酒”と地物のアワビを堪能

まずは寿司に欠かせない酒選びから。「梅清」には純米吟醸を中心に、白ワイン、酒粕焼酎、吟醸酒と地物の梅で作った梅酒まで、それぞれこだわりぬいた逸品が揃っている。

「究極の食中酒を、どうぞ」。迷っている筆者を気遣い、芹澤さんが選んでくれたのは、宮城の特別純米酒「伯楽星」。酸味を抑えた柔らかな口当たりだけど、それでいて甘すぎない。まるで寿司を楽しむために作られたようなバランスのいい日本酒だ。


これに合わせ、酒のアテに出してくれたのが地物の煮アワビの刺身、そしてサザエの出汁と溶き卵を合わせた茶碗蒸しだ。アワビは肝と一緒に舌に運べば旨味があふれ、茶碗蒸しは優しい海の香りが鼻孔をくすぐる。

遊び心あふれる握りの数々。まさに至福の時間がここにある

そしていよいよ握りを堪能。まず出てきたのはアオリイカだ。こまやかな包丁仕事を施されたイカが透き通るように白く輝いている。キャビアの塩分だけでいただくアオリイカは、軽く絞ったすだちの爽やかな風味が絶妙なアクセントとなって、食欲を刺激する。

感動に震えた後は、驚きのネタが続く。しめた後に8日間ほど寝かせた佐島のカンパチだ。ネタの上には素材の風味をより生かす煎り酒がさっと塗られている。

「新鮮なネタではなく、寝かせて熟成させたネタが、ここ熱海で受け入れられるかどうか。そこは課題ですね。でも、うちにはうちのやり方がある。挑戦しているというとかっこいいですけど、遊んでいるんです(笑)」。

芹澤さんの「遊び」は、続く。

まだ試作段階だという車海老の握りも、斬新な一貫だ。

「レアにボイルした車海老を、フランス料理で使われるアメリケーヌソースのように海老の頭と尻尾の部分を潰した出汁に、漬け込んでいます。あたたかい状態の海老に味がしっかり染み込むように」。

ぷりぷりの身は柔らかく、口の中でほぐれる。寿司を洋風に味付けるというアイディアも新鮮だ。


熱海産のアジも、身がしまっていて美味い。アサツキをペースト状にして生姜の絞り汁を入れたという薬味が効いている。この薬味は、ニンニクやニラに近い風味を出せるのだという。


カツオの藁焼きには玉ねぎ醤油をかけて。このタレによって、カツオの香ばしさが一層旨味を増していた。通常より厚めに切ることでマグロ感を味わってもらいたいという大トロは、筋の部分を切った「はがし」にすることで、しつこさがなくなり何個でも食べられそうだ。

そして北海道のバフンウニをこれでもかと乗せた軍艦巻き。ウニはこれだけで終わらず、よりフレッシュさが強調されたムラサキウニ、さらに今の時期限定の赤ウニという豪華さだった。まるでウニの食べ比べをしているかのようで、これぞ大人の愉しみだろう。

「熱海でとれる地のものだけで、握ってみたい」

芹澤さんは地元出身ではなく、世田谷生まれの世田谷育ち。以前は東京の青山に自分の看板で店を持っていた。

じゃあなぜ熱海にきたのだろう。そこには30年来の付き合いのあるオーナーのすすめがあったらしい。

「そのオーナーが『熱海、すごくいいところだよ』と。でも去年、亡くなってしまってね。それで今後のことを考えたくなって、青山の店をやめ、それから1年間、アメリカのポートランドで過ごしたんです」。

ポートランドには「田舎の魅力」が詰まっていた。それはどこか懐かしさを残す熱海に通じるものがある。だから、日本に戻ったとき、亡きオーナーが言っていた熱海に店を出すことに決めたそうだ。

「熱海もずいぶん変わりました。でも、昔からずっと残っているものもたくさんある。そこがいいよね。25年前に寿司屋の社員旅行で来たことがあったんだけど、当時と同じ看板を見かけたりするから(笑)」。

芹澤さんは、鮨を握ってくれながら「いずれ熱海でとれる地のものだけで寿司を握ってみたい。それができたら贅沢だなあ」と夢を語る。

ちなみに、屋号の「梅清」は、ここ熱海が日本で一番早く梅の花が咲くことから付けられたそう。開花は毎年11月下旬から12月上旬にかけて。最後に出してくれた味噌汁をすすりつつ、そのころにまた熱海に来て、「梅清」の寿司を味わいたいと思った。

梅清
住所:静岡県熱海市渚町5-4
電話番号:050-5595-7065
営業:17:00〜22:00 不定休

出典:OCEANS