SUSHI TIMES

世界を股にかける寿司職人と『将太の寿司』作者・寺沢大介氏による本音トーク!

「寿司×SUSHI」の2時間フルコース対談

『寿司サムライが行く!』刊行記念として、世界を股にかける寿司職人こと寿司サムライ・小川洋利と、寿司漫画の金字塔『将太の寿司』作者・寺沢大介氏による本音(ガチ)トーク!が開催された。

ここでしか聞けない2人の寿司トークがたっぷり2時間フルコースで語り尽くされたので、その全貌をぜひお伝えしたい。
小川洋利さんは、世界の寿司職人では知らない人はいないと言われるほど海外でその名をとどろかせる日本の寿司職人だ。18歳にして単身でオーストラリアに渡り、現地の日本料理屋との出会いをきっかけに寿司職人を目指す。今では国内外のメディアで取り上げられ、その活躍が世界で注目されている。
寺沢大介さんは、一昨年デビュー30年周年を迎え、「将太の寿司」「ミスター味っ子」「喰いタン」など食べ物を題材とした作品を多く手掛けているグルメ漫画家だ。1996年、『将太の寿司』で第20回講談社漫画賞を受賞した。『将太の寿司』は、主人公、18歳の関口将太が日本一の寿司職人となることを目標に奮闘する物語で、その丁寧な調理法と食材の描写は読み手の食欲をそそる至極の作品である。
寿司サムライの小川さん、寺沢さんが描いた将太、現実と漫画でともに18歳で転機を迎えたという面白い共通点があるお二人。そんな、「寿司」分野の第一線で活躍する彼らが思う「寿司」の未来とは?
海外での寿司の受け入れられ方には私たち日本人の発想を超越する驚くべきものがあった。
彼らが本音で繰り広げた「寿司トーク」を聞けば、確実に寿司店に行きたくなるだろう。

日本食「寿司」は怖い、と思う外国人が急増しているワケとは?

今では「SUSHI」という単語が世界共通言語になりつつあり、インドやアフリカでも認知されてきている。
我が国の「寿司」が「SUSHI」として世界で活躍しているのだから私たちとしては誇るべきことなのだ。しかし、今「SUSHI」に変化が起きている。
日本の倍の値段がする寿司を「それでも食べたい」と言わせていた、高級なイメージの寿司ブランドが危うくなっているのだ。「日本食の寿司は怖い」と思う外国人が少なからず一定数いるのである。

では、なぜそんな現状が生まれてしまったのだろうか。
それは、驚くことにさかのぼれば日本人の文化や性格につながっている。

「最大の要因は海外の寿司店の9割以上で、生魚を扱ったことがない人たちが料理しているということです。」

そう小川さんは語っていた。
2017年の調査によると、海外には11万7000店舗の寿司店があり40万人以上の寿司職人がいる。しかし、その9割にあたる約36万人が生魚を扱ったことがないのである。つまり、海外のほとんどの寿司職人が生魚を扱うために必要な知識が不足しているのである。
生魚を食べる習慣がないインドでは、冷蔵庫で保管するという発想もない。そのため、炎天下の中水も使わず寿司店が営まれているということも稀ではないそうだ。通常の魚料理は香辛料を加え、壺に入れて地面に穴を掘って保存している。

しかし生魚となると、そうもいかない。現地ではアジア系の方が商売しており、その人たちもまた生魚を扱ったことがない人が多いため、食材調達、調理、提供までの全ての段階で適切な処理がされてないので、非常に危険な状態での提供となってしまうのである。

当然、客は不調を訴える。

小川さんはこうした現状を目の当たりにし、寿司が適切な形で提供されるよう“世界の寿司職人を育成したい”と志すようになった。これまでに、40か国以上の国を訪れ、各国の寿司職人に対して今まで培ってきた技術と知識を伝えている。
日本と海外の大きな違いの一つは「教育」に対する考え方にある。

日本では、特に職人は技術を「見て覚える」文化なのに対し、海外では「論理的に教わり学ぶ」という考え方が強い傾向にある。こうした文化の違いで日本と海外の寿司職人に壁が生まれ適切な寿司の提供の妨げとなってしまっていたのである。

しかし、外国の寿司職人が知りたい日本の寿司職人の技に対する「なぜそうするのか?」をこういった文化を踏まえて論理的に外国語で教えるのは非常に難しいのである。文化とは独特な思考で、生のものを食べる直前に醤油などで味付けして食べるという文化自体が海外の人からしたら驚きなのである。

そうした日本人の伝統的な食文化は「わび・さび」「ハレとケ」などの文化と同じように、奥ゆかしく美しいからこそ、その継承は容易ではないのである。
そんな現状がありながらも覚悟を持って一石を投じたのが寿司サムライである小川さんなのである。

海外で流行!チョコレート寿司

世界を回る小川さんは日本の「寿司」を広めつつも、海外の「SUSHI」についても学ぶことが多いという。面白いのは、外国人の「SUSHI」の受け取り方の多様性である。
「SUSHI」という言葉の適応性は高く、その国で独自の食文化が形成されているのである。
驚いたのはフルーツやチョコレートを使った寿司。今、ブラジル、アフリカ、ベルギーなどで流行しているそうだ。果物の消費量が多い地域では、こうした甘めの料理が受け入れられやすいのである。海外版おはぎのようなものだろう。

その他、クリームチーズやバナナなどをトッピングしクレープ感覚で「SUSHI」が楽しまれている。「小さい長方形のものの上に細長いものが載っていれば「SUSHI」として受け入れられるんです」と『将太の寿司』著の寺沢氏は笑顔で語っていた。
私たちが思っているより世界に羽ばたいた「寿司」は「SUSHI」として進化を遂げている。
しかし、日本の「寿司」もまた変化をしているのに、皆さんは気づいていただろうか?

日本人は「日本の寿司」を食べなくなった?

海外では、「寿司」が「SUSHI」として様々な味や形で受け入れられている。また、日本産の魚は1貫でどれだけの値段がしようとも、需要がある。つまり、それでも海外の人は日本のものを食べようとするのである。そこに日本産というブランド力の高さを感じる。
一方、日本ではどうだろうか。面白いことに、日本でもまた「寿司」の消費のされ方に変化が起きている。
「外国人は日本産の寿司を。日本人は外国産の寿司を食べるようになってきたんです。」

小川さんはそう語った。
つまり、日本人は品質やブランドより、安く美味しい海外産の魚を使用した寿司を食べるようになってきたのである。日本の素晴らしい食材を日本人が食べなくなってきた。その背景には、安くて日本人好みの味を提供する寿司チェーン店の影響など様々な要因が絡み合っている。ネタが乗っていないライスボールでさえ4ドルで提供される海外の「SUSHI」とは対極的である。

「海外の人の方が、日本人より日本をよく知っている」

小川さんはそうも語っていた。おそらく日本の文化や生産物に対する関心の大きさのことでもあるだろう。
しかし、日本人の寿司の品質に対する関心のなさが日本の寿司文化を危うくすることにも繋がる。安価な外国産の寿司を食べることが消費者に浸透することで日本人の寿司に対する潜在的なブランド力が落ちるのだ。
先ほど、寿司の多様化について触れたが、そうした海外で売れるものを「本物の寿司」とするのかという疑問とともに、日本でもまた、日本で売れる安価なものを「日本の寿司」としていいのかという疑問点も生まれる。

未来の「寿司 × SUSHI」とは?

伝統も大事だが進化することも大事である。固執したら新しい文化や流行が生まれない。そのため、寿司職人の小川さんも「チョコレート寿司は一概に否定できるものではない」と語っていた。実際に、アボガドにチーズをのせた寿司も最初は抵抗があったが今では回転寿司の定番メニューとして並んでいる。
「世界料理になるためには文化的なレガシーがありながら、流行の波に洗われてどう転んでいくか私たちは傍観者として、そして消費者として今後の寿司の変化を見ていくことになる。そういった意味で、「寿司」と「SUSHI」の5年後、10年後が楽しみだ。」と寺沢さんは語っていた。まさに「食」そして「寿司」を追求している2人の寿司に対する本音がこの一言に詰まっている。

2人の「寿司」に対する情熱は伝わっただろうか?日本が誇る2人の寿司エバンジェリストの活動の続報や過去の活動はこちらから見ることができる。きっと、日本の寿司を食べたくなるだろう。

出典:videlicious