SUSHI TIMES

刺し身のつまは飾り?食べ物?

旬の魚の刺し身を引き立てる、大根の千切りや青ジソなどのつま。焼き魚には、薄紅色のはじかみが彩りを添える。魚料理に付きもののあしらいは、単なる飾りか食べるものか、知らない人も多いのでは。和食の専門家に聞いた。

料理の一部

日本料理店の刺し身は、さまざまなあしらいを使って盛り付け、目でも楽しめる料理に仕立てている。グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)の「和食 清水」では、器の奥に大根の千切りが山と置かれ、手前に紫色の花が開きかけた花穂(はなほ)ジソ、赤紫色の紫芽(むらめ)があしらわれている。つま=大根の千切り、と思いがちだが、「つまは盛り付けを引き立てるあしらいの総称です。中でも代表的な大根やキュウリなどの千切りは『けん』と呼びます」。同ホテル和食料理長、竹内康二さん(53)はこう説明する。刺し身は、つまを使って奥を高く、手前を低く盛り付け、立体感を出す「山水盛り」が定石。といっても、単なる引き立て役ではなく「つまは料理の一部。栄養の面から見ても、食べるものです」(竹内さん)。つま用の大根の千切りは和食の料理人にとって「基本中の基本」。食べるのが前提だからこそ、「切った後に水にさらすと味が全部抜けてしまうので、細く切りすぎてもだめなんです」。

脂の多い魚と

刺し身と一緒にけんは食べても紫芽、紅タデなど芽ものや、花穂ジソには手を付けない人は少なくない。これら香辛野菜は独特の香り、辛味を持ち、殺菌作用がある。「もともとは魚の腐敗や食あたりを防ぐ役目がありました」と、辻調理師専門学校の日本料理教授、中村泰弘さん(48)。鮮度の良い魚が手に入るようになった今日では、口直しや香りを楽しむためと役割は変化している。中村さんは、特にマグロやブリなど、脂の多い魚と一緒に食べることを勧める。食べ方のコツは-。花穂ジソは箸の先で小さな花をしごき取ってしょうゆへ。芽ものもしょうゆに入れる。ただし、わさびはしょうゆに溶かず、魚介にのせる。そうすれば脂の多いマグロのトロには多めに、淡泊な白身魚には控えめに、という具合に調整できる。

はじかみは最後に

一方、焼き魚に立てかけられている薄紅色の「はじかみ」は、芽ショウガ(筆ショウガとも)を甘酢に漬けたもの。これも目で楽しんだ後は、食べると良い。食べるタイミングが大事だ。魚を食べ終わった後に白い部分をかじると、口の中に残った魚の生臭みがすっきりする。「懐石料理などでは、次の料理をおいしく味わうために口の中をリセットさせる効果もあります」と竹内さん。外国人観光客が増加する中、こうした食べ方を尋ねられる機会があるかもしれない。あしらいは、魚をおいしく食べるための先人の知恵。中村さんは、「伝承してゆきたい日本の食文化です」と話している。

家庭では「海藻」がお勧め

家庭で大根を糸のように千切りにするのは難しい。では、どんなつまを合わせたらいいか。「食物繊維、ミネラルが豊富で低カロリーな海藻類がお勧めです」と、管理栄養士の山内寿子さん。鶏のトサカに似た形のトサカノリ、鮮やかな緑色のオゴノリをはじめ、身近なワカメやモズクなどを組み合わせるといいとか。市販の乾燥品は水で戻すだけのものが多く、手間いらず。食感が良く、ボリュームもあるので満腹感も得られる。また、サーモンの刺し身にレタスの千切りを合わせたり、ベビーリーフやカイワレなどでサラダ感覚に仕上げると目先が変わる。

出典:産経ニュース