SUSHI TIMES

フランス産の魚を使うパリの寿司屋 「SUSHI B」はミシュラン1ツ星

パリで寿司は食べない。折角パリに来たのだから、出来るだけ多くのフランス料理を食べたいからである。しかし2017年は、2月と9月に同じ寿司屋を尋ねた。ミシュランで1ツ星をとった、花田雅芳氏率いる「SUSHI B」である。店は2区。フランス国立図書館横にあるルーヴォア広場に面した閑静な場所に、店を構えている。

店に入ると、左手に鍵の形の10名ほどのカウンターが広がっており、清潔感に満ち、凛とした空気が漂っていた。2月に訪れた時は、焼き胡麻豆腐、グリンピースとオマールとウニ、カツオとジュレ ミョウガとワサビ添え、キャビアとポワロー、ひめじ鯛の松笠焼きなど、7品ほど出された後より、握りが登場した。

人肌の酢飯がうまい。米の甘みに酢のうま味がなじんで、炊き具合の固さもいい。中では、赤身が最もよかった。きめ細やかで滑らかに歯が包まれ、ほのかに鉄分の香りが立ち上る。煮きりの量も、酢飯とのバランスもいい。一方日本にはない、ラングスティーヌの握りは、車エビより野性味とたくましさがあって、それが酢飯と懸命になじもうとしている姿が、いじらしかった。

秋に出かけた際の料理は、以下の通りである。

ブルターニュの魚介が絶品!

「ブルターニュ産 いちょう蟹の共和え」。渡り蟹に似た身質の蟹とその蟹味噌の和え物で酒が進む。
「ブルターニュ産 黒鯛の焼霜造り」。やはり海が違うと同じ黒鯛でも日本とは違う。食感がしなやかながら、たくましさも感じる。そのたくましさに合わせた。焼き霜というやり方が合う。
「スペイン産天然鮪のトロとイタリア産オシェトラキャビア」。叩いたマグロにキャビアを載せた姿が美しい。マグロは、食感がしなやかで色っぽい。
「スペイン産牡丹海老とブルターニュ産の雲丹」。地中海のガンマヌメリィティアネという海老とアイスランド産のウニとの出会いは、日本では味わえない執拗な色気のようなものがあって、酒を呼ぶ。
「ブルターニュ産ひめじ鯛の松笠焼きとシトロンキャビア」。日本のひめじ鯛と異なり、身質がしっかりとしてほの甘い。
「ブルターニュ産エイの頬肉とフランス産セップ茸の餡掛け」。素晴らしい、コラーゲンに富んだエイの頬肉と、香ばしいセップ茸の組み合わせは、食材だけを見ればフランス料理だが、立派な日本料理になっている。
そして握りは、まずブルターニュ産平目。
ブルターニュ産墨烏賊の新烏賊。
ブルターニュ産槍烏賊。
ブルターニュ産 アカザ海老。
南フランス産天然サーモン。
スペイン産鮪 3週間熟成 赤身。
スペイン産鮪 中トロ漬け。
ブルターニュ産子ひめじ鯛 〆て1週間寝かせたもの。
ネギトロ巻き。
玉子焼き。
そして、フランス産大根ガリである。

日本の食文化の未来がここに息づく

ご覧のように、お米とお酢、海苔以外はすべて大西洋の魚で、ほとんどがフランス産である。中では、スペインで獲れたというマグロの赤身が、日本でも最近出会えないような爽やかな血の香りがあって素晴らしかったが、喜ぶべきはこのネタではないのかもしれない。

例えばラングスティーヌは、ボタンエビや甘エビよりもねっとりとした甘い色気をもって舌に広がり、それがきりりと酢と塩を効かせた酢飯と出会うと、心が焦らされる。一方ルージェ(赤ひめじ)の握りには、じれったいような甘みが酢飯と舞う、新たな感覚があった。

それぞれの地で獲れた旬の食材で、日本料理を作る。そのことは、日本料理の哲学であり、異国文化を柔軟に吸収し、自分のものとしてきた日本人の精神でもある。フランスやヨーロッパの魚介だけを使って寿司を握る「SUSHI B」の花田さんは、そのことを体現している。

そしてここにもまた、寿司という日本の食文化の未来が、確実に息づいているのである。

SUSHI B
●ランチコースは、58ユーロ、90ユーロ、95ユーロ、130ユーロの3通り。
●ディナーコースは95ユーロ、130ユーロ、160ユーロの3通り。
今回紹介したのはディナーの160ユーロコースとなる。
現在常備している日本酒は、「九平次」「獺祭二割三分」「麒麟山」「大七」「黒龍」。おすすめワインはブルゴーニュ。

所在地 5 rue Rameau 75002 Paris
電話番号 01-40-26-52-87
http://sushi-b-fr.com/jp/

出典:CREA WEB