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出汁は一日にして成らず!『日本橋ゆかり』店主が教える3種の出汁の引き方

鰹や昆布などの凝縮された旨味を、丁寧に引き出すことで生み出される『出汁』。まさに日本料理の基本とも言えるだろう。今回は、日本が誇る和食の原点とも言うべき出汁の秘密とその引き方を名店の主人が教えてくれたので早速紹介しよう。

まずは、出汁の基本をマスターしよう

出汁はすべての日本料理の基本であり、日本人にとってのソウルフード。出汁の利いた味噌汁を口にし、思わず「あぁ、日本人で良かった」と思わず呟いてしまう人も少なくないだろう。手軽な粉末やパックタイプの出汁も普及しているが、自らの手で引く出汁の旨さには及ばない。

「日本料理の主素材である魚や野菜にはもともと旨味があります。だから本来は、出汁を引く必要はないんです」と『日本橋ゆかり』三代目・野永喜三夫氏は言う。では、わざわざ出汁を引く狙いは何かといえば、昆布に含まれるグルタミン酸と鰹節に含まれるイノシン酸、二種類の旨味成分による相乗効果にある。

「出汁の旨味が加わることで、一つひとつの食材の持ち味がさら際立つんですね。出汁を引く際に大切なのは、レシピに頼らず、五感を使うこと。天然の食材を使うため、同じレシピでも、素材の状態や気候条件などで出汁の出方は異なります」と語ってくれた。

では、日本料理の基本とも言える出汁の引き方をお教えしよう。

素材を活かす吸い物や椀物に使用『一番出汁』

鰹節と昆布、双方の持ち味を最大限に引き出した出汁。鰹節は血合い抜きを選び、漉す際も絞らず上澄みのみを使う。主に吸い地など椀物に用いられることが多い。

【材料】
・水 ……1升(1.8リットル)
・昆布 ……25g
・鰹節(血合い抜き) ……20g

【作り方】
1、昆布を軽く洗い、水から煮出す。火加減はごく弱火にし、約30分かけて60度まで水温を上げる。沸騰させないように60~75度の温度で30分ほど煮出し、旨味を引き出す。
2、ゆっくり煮出した昆布は、乾燥した状態の3~4倍に膨らむ。沸騰直前まで温度を上げてから味を見て、出汁が出ていたら昆布を取り出す。
3、鍋の温度を沸騰直前の90~95度に上げて鰹節を入れ、すぐに火を止める。鰹節を入れる際は、鍋の表面にまんべんなく行き渡らせる。
4、鰹節が完全に沈殿するまで待つ。仕上がりが濁る原因になるため、混ぜたり不必要に触れないことが重要なのだ。
5、鰹節が沈んだらキッチンペーパーを挟んだザルで静かに漉す。この際、絞ったり、押さえたりしないこと。
6、見た目にも透き通って美しい一番出汁。上品な香りと旨味が求められるため、強いコクと旨味をもつ鰹節の血合い部分の使用は避ける。

煮物やお浸しなど万能に活躍する『二番出汁』

一番出汁で使用した鰹節と昆布に、新たに鰹節・昆布を加えて旨味とコクをプラス。時間をかけて煮出し、旨味を抽出する濃厚な出汁。味噌汁や煮物など万能に使える。

【材料】
・一番出汁で使った鰹節、昆布
・水 ……1升(1.8リットル)
・鰹節(血合い入り) ……7g
・昆布 ……8g

【作り方】
1、すべての材料を鍋に入れて火にかける。一番出汁で使用した鰹節と昆布だけではコクや旨味が足りないため、新しい昆布と鰹節を加えて補う。
2、澄んだ出汁を取ることが目的だった一番出汁と比べ、二番出汁に求められるのは濃厚な旨味やコク。しっかり混ぜてから火にかける。
3、中火で沸騰させ、約30分煮出す。これにより、新たに加えた昆布の出汁を引き出す。
4、キッチンペーパーを挟んだザルで出汁を漉す。旨味を十分に抽出するため、菜箸で押しながら絞る。

繊細な野菜の風味を引き立てる【昆布出汁】

独特の香りと濃厚な旨味が特徴で、野菜や豆腐を使った料理と相性が良い。昆布をゆっくり煮出して旨味を抽出するのだが、昆布を取り出す直前に温度を上げる工程がカギとなる。

【材料】
・水 ……1升(1.8リットル)
・昆布 ……25g

【作り方】
1、昆布の表面を流水で軽く洗うか、固く絞った布巾などでサッと拭き、表面の埃や汚れを落とす。鍋に投入し、水から煮出していく。
2、火加減はごく弱火で、ゆっくりと温度を上げていく。30分かけて60度、その後30分間は60~75度の温度を保ち、昆布の旨味と香りを引き出す。決して沸騰させないこと。
3、水からゆっくり煮出して約30分後、昆布をつまんでみて、爪でスッと傷が付くほどやわらかくなっていたら十分に戻っている証。
4、仕上げに沸騰直前まで温度を上げ、さらに旨味を引き出す。味を確認し、出汁がしっかり出ていたら昆布を取り出す。

ここに挙げた数値はあくまでも目安だ、必ず色や香りをチェックし、味見をして自分の目と舌で確かめたい。基本出汁の引き方をマスターすれば、料理の腕が格段に上がるに違いない。是非チャレンジしてほしい。

【DATA】
●日本橋ゆかり
住所:東京都中央区日本橋3-2-14
電話番号:03-3271-3436
営業時間:11:30~14:00(L.O.13:00)、17:00~22:00(L.O.20:30)
定休日:日、祝日

●野永 喜三夫
『日本橋ゆかり』三代目。京都『菊乃井』で日本料理を学び、25歳の時に実
家へ戻る。NYタイムズ紙に日本を代表する若手料理人として選ばれるなど、世界の料理人として様々なメディアや海外でも活躍する。

出典:エイ出版社
ライター:ヤマダタケシ