SUSHI TIMES

「仕入れ過多」はこう防ぐ!

お鮨屋さんの生命線は何と言ってもネタの鮮度。

ネタの味が落ちる鮮度落ちの原因の一つに「仕入れ過多」が挙げられます。
特に街のお鮨屋さんなど、小規模店では仕入れ過多にならないようなテクニックと経験が必要です。
以下に、ポイントをあげてみます。

1、半身で仕入れる

 

仕入れる魚の量を落とす一番手っ取り早いやり方です。丸で仕入れているところを半身にするだけです。
白身の場合、養殖もの限定のことが多いですが、築地でも仲買を選べば普通にやってくれます。

半身で仕入れる場合「単価が上がるか重さが上がるか」のどちらかです。
通常は表のように丸の半分の重さで計算して売ってくれます。因みに半身で仕入れた場合、歩留りには注意が必要です。通常カンパチの歩留りは0.55ですが半身の場合は0.45で計算すると大体合致します。

【1枚10g】なら
1500÷0.45×0.01=33円

【1枚15g】なら
1500÷0.45×0.015=50円

です。丸で買うよりも単価的には不利ですが裏技もあります。

魚を半身にすると骨のある方とない方に分かれます。「骨と、出来れば頭も欲しい」と頼めばただでくれる店もあります。(頭は別で売るのでダメ、と断る店もあります)これらをもらってきて潮汁にしてお客様に格安で振る舞うわけです。仮にあら汁を1杯100円にしても30杯出れば3000円です。カンパチの仕入れ価格ぐらいは出てしまいます。

煮魚にして土産に持って帰ってもらえば家庭での会話にあなたの店の名前が出ます。こういうことはチェーン系の店や大型の店舗では中々できません。街の寿司屋の真骨頂ですから大いにやりましょう。

※歩留りはおろし方(カマの切り出し方)などでも上下します。
数回に一回は実際の値を計ってみるべきでしょう。「半身仕入れは粗をゲットして潮汁、または煮物で少しでも回収」が正解です。

2、箱モノをバラで毎日仕入れる

 

水槽で泳いでいるものを活け物、と言うのに対して最初から発泡箱で氷漬けになっている物を箱モノといいます。産地で箱詰めにされてトラックで市場にやってきます。活け物より安いのが普通ですが仕入れるには魚を見分ける目が必要です。慣れないうちにやってしまうのは、「いいと思って買ってきたけど下身は血がまわって使い物にならなかった」ということです。

鮮度と同時に、きちんと血抜きがしてあるかどうかも見ましょう。信頼のおける漁師の魚を指名買いすることもできますが往々にして活け物並みの価格になります。様々なサイズの中から自店にあったものを選べるのも箱モノを仕入れる利点です。「価格が安定しているから」と盲目的に養殖の魚を使い続ける店もありますが、養殖の魚は大抵大きさが決まっています。いけすからの出荷基準が決まっているからです。街の寿司屋の場合、1.5㎏の養鯛を仕入れても、その日に使ったのは1/4だけだった、なんてことはフツウにあることです。

翌日も使い切らず、3日目「まだいける」と思ったら3日目も残り…これから養殖技術もさらに進歩はするのでしょうが、3日目以降の養鯛魚は独特の脂臭さが出てきて正直苦しいです。それなら0.8㎏の天鯛を毎日仕入れる方が安定して魚の美味しさをアピールできます。こういったキメの細かさが大切なのです。

3、箱買いの店はロスを恐れず回転させる

 

箱で仕入れると大幅に安く買えます。こちらは箱ごと(4㎏または5㎏など)仕入れる、という意味で、箱モノをバラで買う「2」よりも安くしてくれます。
街の寿司屋でもある程度大きく売っている店では普通にやっていますが、一つの種類の魚で5㎏となると、加熱料理にもどんどん使わないとまず余ります。

これは別掲しますが、席数30席以下の店で料理系に走り過ぎると苦しくなります。寿司と刺身で元気に使い、余ったら捨てる覚悟を持つことです。
捨てる、というとショックが強いですが要は売り物にはしない、ということです。賄いにしたりご近所に配るなど色々ありますね。個人店の場合、オーナーが緊張感を維持できないとどうしても「まだ使える」と思って鮮度落ちの魚を握ってしまいます。もったいない、という気持ちが強くなってしまうからです。

「もったいない」と自分たちで食べるのはいいのですがお客様に押し付けると間違いの始まりになるので注意が必要なのです。何度も何度も言いますがお客様は「ん?」と思っても文句を言いません。黙って来なくなります。それなら加熱調理に、と思うのが常ですが寿司屋が遅れた(「古い」の隠語)魚をどうするか、今は万人が知っています。みそ漬けや幽庵漬けも調理法としては優れていますが「生で食べられなくなった魚の逃げ道」と思ってはいけません。
もしやるなら仕入れたその場で加工用に取り分けて置くべきです。レギュラーメニューとして常時掲載し、人気商品に育てるくらいにすべきです。寿司屋のカウンターで余りもの料理を出されて喜ぶ人はもういません。安いからと箱で仕入れるときは注意が必要です。

おススメは「箱モノをバラで買う」

 

魚を鮮度のいい状態で使い切る方法を見てきましたが、規模の小さい街の寿司屋では2で行くべきでしょう。
活け物は鮮度抜群をアピールしやすい反面単価が高く利益が出にくいです。売れているときはいいけど、今のように厳しい状況では避ける方がいいと考えます。毎日河岸に出向き、仲買と話をしましょう。昨日買った魚が良かった、悪かった、のような会話を毎日しているうちに仲買もこちらの本気度を分かってくれるようになります。都心の売れている店で修業をした人が独立すると時として独りよがりのプライドが邪魔をしたり自分が修業を積んだ店と同じやり方を通そうと思って失敗します。別に毎日鯛や平目を置かなくてはならない理由はないのです。夏に活けのコチやカレイを置けばカッコいいですがなくてもお客様に喜んでもらう方法はあります。カサゴや糸引き、ホウボウなど、サイズを問わなければ高鮮度で安い買い物はできるものです。そして釣りをする方はご存知でしょうがたとえ200gのホウボウでも鮮度のいいものはビックリするくらい美味しいです。

セット商品を提供するときに「お待ちどうさま!今日の白身は○○で獲れたホウボウです」「へーホウボウってどんな魚?」なんて会話が生まれたら、それも次のマーケティングのチャンスになります。つまり「写真撮っておきました。これです。あと、ここにアドレス入れて登録していただけたら、毎日の仕入れを見ていただけますので是非どうぞ」ということですね。街の寿司屋はこうやってファンを増やしていくのです。

出典:代々木上原 鮨武 寿司店経営|街のすし屋に明日はある!-5- 仕入れ過多に注意しよう