SUSHI TIMES

“60代からの創業”の考え方とは? コーヒー激戦地で躍進を続ける「街の茶の間」

清澄白河といえば、コーヒーの街。オールプレス・エスプレッソやブルーボトルコーヒーなど、海外の大手が上陸し、激戦地の様相を見せています。

そんな街の一角に、ご夫婦だけで営む、小さな小さなコーヒースタンド「sunday zoo」があります。1杯1杯丁寧にドリップするのは、会社員時代に同店をオープンさせたオーナーの奥野喜治さん。お客さんがひっきりなしにやってきます。

ミニマムな投資で開業し、まちの人に愛されるコーヒースタンドへと成長した創業ストーリーをうかがいました。


 

“コーヒーの街”とのシナジー効果、地域の茶の間として大きく成長


──コーヒー激戦地での開業は大変ではありませんか。

2013年10月に個人事業主として起業し、2014年1月に開店しましたが、近所にコンビニはできるし、ほどなく海外の大手コーヒー店が相次いで開業。「勝負にならない」と、早々の廃業も覚悟していました。

ところがメディアに清澄白河はコーヒーの街だと紹介されたから、コーヒー好きのお客様がたくさん来てくれるようになりました。シナジー効果で売り上げは初年度に比べて2年目は3.5倍、3年目は4.5倍に増えています。みんなお客様に支えられてのことです。

金・土・日の週末限定営業なので、通常ならば認知されるのに時間がかかるところ、メディアの力で宣伝され今の状態になったのはとてもありがたいことです。


──どんなコーヒー店を目指しているのですか。

おいしいコーヒーが大前提。夫婦でやっている小さな店ですので、街の「茶の間」になれたらいいと思っています。

茶の間にはお茶と会話が必要ですよ。ですからお茶に加えて、お客さんとの会話を大事にしたいのです。1杯300円のコーヒーを飲みながら、職場や家庭では話さないようなこともここで話して、ほっとしてもらえればいいなと思います。私自身、サラリーマン時代より世界が広がりました。

 

会社員時代に培った経営の知識、DIYで出費を抑え夢をかなえる


──会社員をしながら創業したのですか。

正確に言えば63才で定年後、同社で週3日の再雇用を選択したときに、休日の4日間をどう過ごすか考えました。その結果、以前から考えていたコーヒーショップをやってみようと。20代からコーヒーが好きだったし、定年の10年ぐらい前から焙煎を始めていました。

自宅に近い清澄白河や森下、門前仲町の深川地区で物件を探しました。当時この近辺では、休日においしいコーヒーが飲めるところがなかったのです。ここの物件は、自転車で通りがかって見つけました。事務所用途だったので最初は飲食はダメと言われたのですが、大家さんがコーヒー好きだというので運良く貸していただくことができました。

──創業1年目は二足のわらじだったと。

月・火・水は会社勤め、金・土・日はsunday zooの営業で、木曜日は焙煎。1年目と2年目は365日休みなしで働きました。リノベーションも出費を抑えてDIYでやりましたから、体力勝負でしたね。

無我夢中でしたが、やりたいことができるよろこびの方が大きく、面白かったですね。「コーヒーショップをやってみたい」と奥さんに話した時、「退職記念にクルーズ旅行に出るより、楽しそう」と言ってくれたのが大きな支えになりました。

60代から事業を起こしては失敗はできません。小さな焙煎機の購入と、玄関ドアの窓ガラスを透明にすることにお金をかけたぐらいで、初期投資は最小限に抑えました。

税務署や保健所への届け出や手続きなども自分で。商品棚やカウンターも手づくりしました。幸運なことに初年度で開業資金を回収でき、現在のところ無借金経営が実現できています。ただ外部からの支援を受けなかった点については、B2Bの観点でいうと弱みになっている部分もあるかも知れませんが。


──経営感覚が大事ですね。

「成功するかどうかはやるかやらないかだ」のメッセージのとおり、やりたいことがあるなら、一歩踏み出さなければなりません。ただし、昨日考えついたようなことはやめた方がいい。一時のブームに乗るのも危険です。

特に定年後の起業はやり直しがきかないので、マネジメントの基礎をしっかり固めておくといいと思います。私は前職の退職前10年ほど、経営改革の手法の1つである「バランススコアカード」と「オペレーショナル・エクセレンス」を担当していました。

現在はコーヒースタンド事業が95%ほどを占めていますが、創業した会社の事業内容は、経営支援やマネジメント改革支援をする「マネジメント・アドバイザリー」が柱です。会社員時代に培った経営の知識があったことが、今につながっていると思います。

またsunday zooの開業に先立ってこちらの業務で得た資金を、コーヒースタンド事業に充てることもできました。4年目の今年はマネジメント・アドバイザリーにも力を入れて、シニア世代だけでなく、若い世代の起業にもお役に立てればと思っています。


ローカルなお客様とのつながりからグローバルな経営の可能性が見えてきた

 
──東東京の良さは何だと思いますか。

「人の良さ、土地の良さに尽きる」ということでしょうか。

下町的というか。商売的にはよそ者の私たちもすんなり受け入れてもらえました。隅田川の東側は物件も割安で物件が取得しやすく、手仕事などの個人事業主も多い。私たちもそうですが、小規模ビジネスが間近で見られるのは新しい生き方を考える時にメリットになるかもしれません。

デジタルが発達しすぎた今の時代は、むしろアナログの良さが受け入れられている印象があります。これからは個性的な個人商店がいっぱい広がるといいですね。


──創業者へのアドバイスをお聞かせください。

想いを「経営計画書」に丁寧に書き上げて考えを整理するといいと思います。軸がぶれないこと、続ける意志があることが大切です。

私は、経営のエリアをある地域に限定するのは好きでありません。もちろん、コーヒーを提供するのはお客様と親密な関係を結びながらのローカルな営みなのですが、最近はおかげさまで欧米やアジアからの旅行者のお客様も沢山いらっしゃいます。以前ここに来た海外からの方が帰国して口コミで広げてくれて、話を聞いた方が来店されています。

このようにコミュニケーションの相手は世界中にいるのです。なのでこれからは、経営のエリアはグローバルに、顧客とのつながりはローカルをめざして、「東東京だけに視点を定めないで世界を見通す」ような、枠に捉われない起業をしてほしいと思います。


2014年1月にオープンしたコーヒースタンド。店名は、7人いる孫が週末に遊びに来ている時に、奥様がつぶやいた「まるで動物園のようだわ」のひとことにヒントを得た。コーヒー豆は産地指定で仕入れており、欠点豆を一つひとつ手作業で取り除くハンドピックを実施されている。「これをやると全然味が違う」という。自家焙煎し、豆も販売。焙煎度の異なるブラジル、コスタリカ、グァテマラなど8種類の珈琲豆を常備している。コーヒー関連雑貨も販売。顧客の要望から、カフェオレやデカフェもメニューに加わった。1杯300円から。

 
〒135-0023 東京都江東区平野2丁目17-4-102
電話:080-4149-0226
営業時間:金・土曜日 10:30-18:00/日曜日 10:30-16:30
定休日:月〜木曜日
http://www.karny.jp/
出典:東東京マガジン